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特許無効性を信じることに基づく誘引侵害の抗弁に関して ‐2015年5月26日 米最高裁判決‐

 2015年5月26日に、米国最高裁判所により、特許無効性を信じることに基づく誘引侵害の抗弁に関する判決が出されました。以下その要点につきご報告致します。

 米国特許法271条(b)には、「積極的(“actively”)に特許侵害を誘引した者は侵害者とする」と記載されている。この米国特許法271条(b)に基づき、Commil USA, LLC (以下、Commil)はCisco Systems, LLC (以下、Cisco)が特許番号6,430,395(以下、395特許)を誘引侵害したとして訴えを起こしていた。

 395特許は、装置とベースステーション間の近距離ワイアレスネットワークの、早く且つ安全な通信方法に関するものである。Commilは、Cisco が395特許を侵害する製品を販売することにより、他者による侵害を誘引した、と訴えていた。

 一方、Ciscoは善意で特許無効を信じること(“a good-faith belief of invalidity”)、が米国特許法271条(b)の誘引侵害に対して抗弁となる、と主張した。この抗弁は地裁により拒絶されたが、その後、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)により覆された。CAFCは、395特許の無効を善意で信じていた、との証拠を提出する権利をCiscoは有している、との見解を示した。また、CAFCは、Global-Tech Appliances, Inc. v. SEB S. A., 563 U. S. ___ (2011)において、米国特許法271条(b)の誘引侵害には誘引された行為が、特許を侵害している、と知っていた(“knowledge”)ことが必要である、との見解を最高裁が示した、ことに言及した。またCAFCは、被疑者は特許侵害を誘引するとの具体的な意図(“specific intent to induce infringement of a patent”)を有していたかに関して、善意で無効を信じることは、善意で特許の非侵害を信じることと原理的な相違はない、との見解を示した。

 今般の最高裁判決では、上記のCAFCの見解を覆し、米国特許法271条(b)の誘引侵害に対して、善意で特許無効を信じることは有効な抗弁とはならない、との考えを示した。この理由として、誘引侵害の立証に必要な「故意」(“scienter”)の要件は、侵害に関するものであり、特許の有効性とは異なるとし、米国特許法271条(b)は、被疑者が積極的に侵害を誘引することを要件として求めており、所望の結果(つまり侵害)を起こす意図を要件として求めている、と述べた。また更に、米国特許法271条(b)の下では、侵害と特許有効性は別々の問題であるので、特許の無効性は、誘引侵害の立証に必要な「故意」の要件を否定しない、との見解を述べた。

 また、Ciscoの抗弁(善意で特許無効を信じること)を許した場合、特許の推定有効性( “presumption of patent validity’)を弱体化させることにもなるとし、もし特許無効を信じることが誘引侵害に対する抗弁となれば、特許の推定有効性が劇的に低下し、単に合理的に特許の無効性を信じていた、と証明すれば被疑者は侵害を回避できることになる、と述べた。

 更に、最高裁は、特許無効を信じる被疑者は様々な手段(例としてdeclaratory judgement, inter partes review, ex parte reexamination)によって、特許の無効を訴えることが可能であるだけでなく、新しいCiscoの抗弁(善意で特許無効を信じること)はディスカバリ費用の増加や陪審員が決定する論点の増加によって、訴訟を煩雑化させることにもなる、と指摘した。

 尚、上記判決の他に、2名の最高裁判事が反対意見を述べており、「有効な特許のみが侵害され得るので、善意で無効を信じる者は、特許が侵害されることはない、と必然的に信じることになる。従って、特許が侵害されることはないと信じる者にとって、特許を侵害すると信じる行為を誘引することは不可能であり、善意で特許の無効性を信じることは誘引侵害に対して有効な抗弁となる」との意見を述べた。

 本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
同 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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