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自明性に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決

(NOVARTIS PHARMACEUTICALS CORP. V. WEST-WARD PHARMACEUTICALS INTL. LTD. (FEDERAL CIRCUIT May 13, 2019))

 2019年5月13日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、自明性に関する判決が出されました。

 癌治療特許の有効/無効に関する本判決において、CAFCは、引例を組み合わせる動機の立証に関して地方裁判所が要求した高い基準を否定しましたが、先行技術の教示を組み合わせることに関して合理的な成功の見込みがなかったとして、特許は自明でないと判断しました。

<背景>

 Novartis Pharmaceuticals Corp. (以下「Novartis」)は、米国特許第8,410,131号(「131特許」)を所有している。131特許は、進行腎細胞癌(「RCC」)を治療する化合物エベロリムスの使用方法に関する発明である。進行腎細胞がんは、体の他の部位に転移した腎臓のがんである。
 West-Ward Pharmaceuticals Intl. Ltd. (以下「West-ward」)は、エベロリムスを含有するノバルティス社の製品のジェネリック版を製造するために略式新薬承認申請(以下「ANDA」)をした。ノバルティスは、West-wardによるANDA申請に対して特許侵害訴訟を提起した。地方裁判所は、審理の結果、131特許のクレーム1~3は有効であり、特許侵害有りと判断した(両当事者は侵害の存在については合意していた)。
 West-wardは、有効性に関する地方裁判所の判決について控訴した。West-wardは、医薬品テムシロリムスに関する引例(HidalgoまたはHutchinson)、医薬品エベロリムスに関する特許(米国特許第5,665,772号または米国特許第6,004,973号)、および当該技術分野における一般知識を参考にしたときに131特許の発明は自明である、と主張した。
 131特許の優先日である2001年2月の時点において、先行技術は以下を開示していた:

(1) mTOR阻害剤と呼ばれる化合物は腫瘍増殖を阻害するであろう効果を生じる;
(2) エベロリムスは経口製剤として利用可能なmTOR阻害剤である;
(3) RCC患者は第I相臨床試験においてテムシロリムス(別のmTOR阻害剤)治療に反応を示す。

進行RCCだけでなくいかなる種類のがんについても治療薬としてのエベロリムスの有効性に関するデータは存在しなかったが、West-wardは、上記の開示に基づけば進行RCCを治療するためにエベロリムスを使用することは当業者にとって自明であった、と主張した。

<CAFC判決>

 自明性に基づき特許無効を主張する当事者は、(1)発明に到るために先行技術文献の教示を組み合わせる動機を当業者が有していたこと、及び(2)教示を組み合わせるにあたり当業者が合理的な成功の見込みを有していたこと、を立証しなければならない。
 第1の要件に関して、地方裁判所は、進行腎細胞癌に対するいくつかの治療選択肢の一つとしてエベロリムスを研究する動機が当業者にあったと判断した。CAFCは、進行RCCの有効な治療法に対する必要性、経口治療への選好、有望なテムシロリムス第I相臨床データ、およびエベロリムスとテムシロリムスとに共通する特性を鑑みれば、この判断が妥当であったと指摘した。しかし地方裁判所は、上記の判断にもかかわらず、引用文献を組み合わせる動機があったか否かに関しても分析を行った。具体的には、地方裁判所は、mTOR阻害剤のみに限定して先行技術の評価を行った専門家の証言を批判し、mTOR阻害剤以外の治療法に関する技術も関連先行技術に含まれる可能性があったと判断した。地方裁判所は、発明当時には他にも様々な開発中の治療法が存在したのであり、進行RCCに関する分子生物学的知見が欠如していたため、当業者はmTORモジュレーション以外の技術も探求せざるをえなかったであろうと指摘した。これに基づいて地方裁判所は、当業者がエベロリムスに的を絞る動機があったことをWest-wardは立証できていない、と結論付けた。
 CAFCは、地方裁判所が、引用文献を組み合わせる動機について、そのような高い基準を適用したのは誤りであると判示した。すなわち、進行RCCに対する幾つかの治療選択肢の一つとしてエベロリムスを研究する動機が当業者にあったであろうとの地方裁判所の判断は、参考文献を組み合わせる動機の存在を示すために十分であると判断した。そして、他の先行技術の治療法があるにも関わらず当業者がエベロリムスを選択したであろうことの証明をWest-wardに要求することは不適切であると指摘した。
 一方で、CAFCは、West-wardの主張する先行技術の組合せには、合理的な成功の見込みが存在したとの証拠がないとする地方裁判所の判断に誤りはない、と判示した。テムシロリムスの第I相データはサンプル数が少なく、有効性ではなく安全性を試験することを目的とした試験から得られたものであることを、地方裁判所は適切に評価したと判断した。CAFCはまた、131特許の優先日の時点で、第I相の次に行われるべき第II相のデータは得られてなく、第II相では一般に70%以上の腫瘍治療薬が失敗するという事実を指摘した。また更に、テムシロリムスとエベロリムスとが薬理学的差異を有することを認識し、テムシロリムスとエベロリムスとが同じ抗腫瘍効果を有するであろうことを先行技術から当業者は合理的に予想できなかったであろうと結論付けたことについて、地方裁判所の適切な判断を支持した。さらに、進行RCCの分子生物学におけるmTORの役割が、131特許の優先日の時点では完全には理解されていないと判断するにあたり、幾つかの先行技術文献を地方裁判所が適切に検討していると評価した。
 以上に基づいて、CAFCは、先行技術の教示を組み合わせることについて合理的な成功の見込みを当業者が有していたあろうことをWest-wardは立証できていないとして、最終的に地方裁判所による有効性の判断を支持した。

 本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。
本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC:米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔

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