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意匠権の侵害認定に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決 (LANARD TOYS LIMITED v. DOLGENCORP LLC (Federal Circuit, May 14, 2020))

意匠権の侵害認定に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決 (LANARD TOYS LIMITED v. DOLGENCORP LLC (Federal Circuit, May 14, 2020))

2020年5月14日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、意匠権の侵害認定における判断基準に関して議論した判決が出されました。

 

背景

 Lanard Toys Limited(以下「Lanard」)は米国特許第D671,167号(以下「D167特許」)の権利者である。D167特許は鉛筆形状のチョークホルダーに関するものであり、Lanardは、該当する製品として「Lanard Chalk Pencil」(Lanardチョーク鉛筆)を製造・販売していた。

 一方、Ja-Ru, Inc. (以下「Ja-Ru」)は、鉛筆に似た玩具チョークホルダーを2012年に設計した。この際Ja-RuはLanardチョーク鉛筆を参照サンプルとして製品設計に使用した。2013年にDolgencorp LLC (以下「Dolgencorp」)はJa-Ru製品の販売を開始した。以下に、Lanardチョーク鉛筆、D167特許の図1、及びJa-Ru製品を示す。

 2014年に、Lanardは、Ja-RuとDolgencorpとに対してD167の特許権侵害で訴訟を提訴した。地方裁判所は、Ja-Ruの製品はD167特許を侵害していないと判断した判決を下した。Lanardは、この判決を不服としてCAFCに上訴した。

 

CAFC判決

 CAFCは、意匠権が侵害されたか否かを決定するために2段階テストを用いた。まず第1段階において、裁判所がクレームの意味及び範囲を決定するためにクレーム解釈を行い、次に第2段階において、事実認定者が解釈済みクレームと被疑意匠とを比較する。

 第1段階に関して、CAFCは、意匠権は通常図面に示されるものとしてクレームされるが、意匠が機能的要素と非機能的要素との両方を含む場合、当該クレームの範囲は、当該意匠の非機能的側面を特定することにより解釈されなければならないと指摘した。CAFCは、地方裁判所がこの基準に適切に従ったと判断した。この点に関して、地方裁判所は、まずD167特許から5つの例示的な図を再現し、それらの図を用いてクレーム解釈を行った。保護対象の範囲を明らかにするため、地方裁判所は、「円錐形テーパ状部分」、「長いボディ」、「フェルール」、「消しゴム」、「筆記用具としての意匠の機能的目的」、「デザイン全体の太さ」、及び「テーパ状端部の円形開口」の機能性を含む、筆記用具全体としての機能的目的と共に、意匠の機能的特徴を検討した。Lanardは、地方裁判所がクレームに係る意匠の要素を全て排除してしまっていると批判したが、CAFCは、「消しゴムの円柱形状」、「フェルールの特有の溝の外観」、「円錐形部分の滑らかな表面及び直線状テーパ」、及び「お互いの関係におけるこれら要素の特有の比率」を含む各機能要素の装飾的側面を地方裁判所が慎重に認定したと結論づけた。

 CAFCはまた、地方裁判所が、クレームを解釈するにあたり、鉛筆の形状及びデザインに関する多数の先行技術文献を考慮したことを指摘した。これらの文献に基づいて、地方裁判所は、「Lanardの意匠の全体的な外観は、お互いの関係における様々な要素の正確な比率、フェルールの寸法及び装飾、並びに円錐形テーパ状端部の特有の寸法及び形状においてのみ、先行技術と区別される」と結論づけた。CAFCは、この地方裁判所によるアプローチは、被疑意匠及び先行技術との関係において意匠クレームの各特徴を明らかにすることが重要であるという判例法の考えに一致すると結論付けた。

 侵害を認定するためのテストの第2段階について、CAFCは、登録意匠と被疑意匠とを比較する際に「通常の観察者」テストが適用されること、即ち、「通常の観察者の観点から購入者が通常示すような注意を払った際に、2つの意匠が実質的に同一である場合、そして類似性が観察者を欺くようなものであり、他方の意匠を購入するように仕向けるものである場合」に侵害が認定されることを指摘した。この点に関しても、CAFCは、地方裁判所がこの基準に適切に従ったと判断した。この点に関して、地方裁判所は、登録意匠をJa-Ru製品と並べて配置し、「両者は共に第2番鉛筆に見えるようにデザインされたチョークホルダーであり、両者は様々な意匠概念を共有している」と認定した。特に重要なこととして、地方裁判所は、両者の意匠の類似性は、機能的な意匠の側面或いは先行技術において十分に確立されている意匠の側面から生じていることに着目した。そして地方裁判所は、「通常の観察者の注意は、先行技術と異なる登録意匠の側面に向けられることになり、その側面において登録意匠と被疑意匠との差異が容易に明らかになる」と判断した。これに基づいて、地方裁判所は、先行技術を考慮に入れた通常の観察者は被疑意匠が登録意匠と同一であるとは考えない、と結論付けた。

 Lanardは、地方裁判所が、登録意匠とJa-Ru製品との全体的なデザイン及び外観における比較ではなく、個々の要素の比較を行うという誤りを犯したと主張した。この主張に関し、CAFCは、意匠権侵害における「通常の観察者」テストでは、事実認定者が、装飾的特徴を他と切り離して比較するのではなく、全体的な意匠の類似性を比較する必要がある点について認めた。しかしCAFCは、「通常の観察者」テストが個々の要素の比較に基づくものではない一方で、意匠が機能的側面と装飾的側面との両方を有することが多いという現実を無視するものではないと指摘した。CAFCは、「通常の観察者」テストの下では、裁判所は装飾的側面を考慮し、それらが意匠全体にどのような影響を及ぼすかを分析しなければならないと指摘した。

 登録意匠の全体的なデザインとJa-Ra製品の全体的なデザインとを比較するにあたり、CAFCは、全体的なデザインに対して通常の観察者が抱く認識に対して、各要素の装飾的な違いがどのような影響を与えるかを、地方裁判所は当然考慮していると判断した。特に、CAFCは、全体的なデザインに対して相違点が「重要ではない」とLanardが主張したことに対して、地方裁判所が、当該主張においては意匠の装飾的側面が適切な文脈において考慮されていないとして当該主張を拒絶したことに留意した。CAFCは、装飾的相違が全体的なデザインに及ぼす影響を考慮するという正しい文脈において地方裁判所は解析を行ない、「概念レベルにおいて意匠クレームの範囲から機能的意匠要素を除外し、各意匠の装飾的側面を先行技術の文脈に基づいて判断すると、登録意匠と被疑意匠との間の相違がより重要になる」と結論付けた。従って、CAFCは、登録意匠の全体的なデザインとJa-Ra製品の全体的なデザインとを比較するにあたり、通常の観察者がデザイン全体をどのように見るかに焦点を絞ることと、デザインの装飾的側面を考慮することとの間で、地方裁判所は適切なバランスをとったと結論付けた。

 またLanardは、登録意匠と侵害製品との間の類似性が、登録意匠が先行技術から差別化する新規性ポイントに帰属することを意匠権者が証明しなければならないという、意匠権侵害における(過去に否定された)「新規性ポイント」テストを採用したという点において、地方裁判所が誤りを犯したと主張した。この主張に対して、CAFCは、「新規性ポイント」テストの正当性を否定する一方で、先行技術との関連において登録意匠と被疑意匠とを考慮することの重要性を否定したことは一度も無いと強調した。CAFCは、「登録意匠と被疑意匠との間の相違点が先行技術を参考にして評価されるとき、通常の観察者の注意は、登録意匠のうちの先行技術と異なる側面に引き付けられるだろう」と述べた。また、登録意匠が先行技術の意匠に近い場合、被疑意匠と登録意匠とのわずかな相違は、通常の観察者の視点において重要である可能性が高い。この点に関してCAFCは、新規性ポイントに通常の観察者の注意が引きつけられるであろうと考えた点において、地方裁判所が新規性ポイントを適切な文脈で扱ったと判断した。以上のようにCAFCは、通常の観察者がデザイン全体をどのように見るかに焦点を絞ることと、新規性ポイントを考慮する必要性との間で、地方裁判所が適切なバランスをとったと結論付けた。

 最後に、CAFCは、Lanardのチョーク鉛筆とJa-Rule製品との間の類似性を強調することによって侵害を証明しようとするLanardの試みを拒絶した。CAFCは、侵害判断テストにおいては、被疑意匠を商業的な実施形態と比較するべきではなく、登録意匠と比較するべきであると指摘した。

 以上に基づき、CAFCは、地方裁判所の非侵害認定を支持した。

 

 本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/19-1781.Opinion.5-14-2020_1587770.pdf

本欄の担当
本欄の担当 副所長 弁理士 吉田 千秋
弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
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