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自明性及びクレーム解釈に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決 (Immunex Corporation v. SANOFI-AVENTIS U.S. LLC (Fed. Cir., 2020年10月13日))

自明性及びクレーム解釈に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決 (Immunex Corporation v. SANOFI-AVENTIS U.S. LLC (Fed. Cir., 2020年10月13日))

20201013日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、自明性及びクレーム解釈に関する判決が出されましたのでご報告申し上げます。

 

この判決において、CAFCは、クレームを解釈することにより、「ヒト抗体」という用語が完全にヒトである抗体に限定されないと結論付け、自明性を理由として対象特許が無効であると判断しました。

 

<背景>

Immunex Corp.(以下「Immunex)は、米国特許第8,679,487(以下「487号特許」)の特許権者である。487号特許は、ヒトインターロイキン-4(以下「IL-4)受容体に結合する単離されたヒト抗体を対象としている。IL-4受容体を抑制することは、関節炎、皮膚炎、および喘息のような炎症性疾患の治療において重要である。

487号特許のクレーム1は以下の通りである:

An isolated human antibody that competes with a reference antibody for binding to human IL-4 inter-leukin-4 (IL-4) receptor, wherein the light chain of said reference antibody comprises the amino acid sequence of SEQ ID NO:10 and the heavy chain of said reference antibody comprises the amino acid sequence of SEQ ID NO:12.

Sanofi-Aventis U.S. LLC (以下「Sanofi)は、特許審判部(以下「審判部」)における当事者系レビュー(inter partes review)において、487号特許に対して異議を申し立てた。審判部は、異議を申し立てられた全てのクレームについて、自明性の理由により無効であるとの決定を下した。Immunexは、審判部の決定に対してCAFCに上訴した。訴状においてImmunexは、審判部による「ヒト抗体」というクレーム用語の解釈に異議を唱えた。

抗体は多数の個々のアミノ酸が特定の配列で連結したものである。抗体はおおよそY字形で、2本の「重い」鎖と2本の「軽い」鎖とからなる。それら鎖の各々はさらに「可変領域」と「定常領域」とに分けられる、各可変領域はYの先端に位置する3つの比較的小さな「相補性決定領域」(CDR)を含んでいる。

抗体の正確なアミノ酸配列は、抗体が何に結合するかを決定し、抗体の治療上の有用性に影響を与える。抗体のアミノ酸配列はまた、ヒトの免疫系が抗体を「ヒト以外」のものとして認識し拒絶するかどうかを決定する。ヒト由来のアミノ酸配列、すなわち「ヒトの免疫系によって天然に産生される抗体のアミノ酸配列と一致する配列」、を用いれば、免疫反応が引き起こされることを回避できる。

初期の抗体医薬の開発はマウスから始まった。例えば、研究においてマウスに抗原を注入し、その抗原に対する抗体を作製し、それらの抗体を回収することができる。この場合、全アミノ酸配列はネズミ科由来である。これらの抗体は、患者において有害な免疫反応を引き起こす傾向があった。

種々の技術を用いることにより、「マウス」と認識される抗体の割合を減らすことができる。例えば、「キメラ」抗体では、「CDR」を含む可変領域はヒト由来ではなく、定常領域はヒト由来であることにより、抗体におけるアミノ酸配列の大部分をヒト由来のものにしている。「ヒト化」抗体では、CDRのみがヒトではなく、免疫反応に関与する部分を含む抗体のアミノ酸配列は、ほぼ完全にヒト由来である。更には、CDRでさえヒト由来である完全なヒト抗体を作製することができる。

当事者系レビューにおいて、審判部は、2つの引例の組み合わせに基づいてクレーム1は自明であると判断した。第1の引例(Hart)は、クレーム1の全ての限定を満たすと考えられる市販のマウス抗体を記載しているが、それは完全なネズミ科由来(すなわちマウス由来)であって、全くヒトではない。第2の引例(Schering-Plough)は、そのようなネズミ科由来の抗体のCDRを他の完全なヒト抗体に移植することによって、抗体をヒト化することを教示している。審判部は、この「ヒト化」抗体は、クレーム中の「ヒト抗体」の解釈に一致すると結論付けた。

 

<CAFC判決>

控訴審において、CAFCは、487号特許において「ヒト抗体」が完全にヒトでなければならないのか、それとも「ヒト化」を含む「部分的にヒト」であってもよいのかの問題を審理した。

CAFCは、クレームを解釈するにあたり、まずクレーム1の文言自体を検討した。CAFCは、クレーム1には「ヒト抗体」を完全にヒトであるものに限定するような文言は一切存在しないことを指摘した。CAFCはまた、従属クレームは更なる情報を提供するものではなく、クレーム全体の記載内容は当該用語の解釈には役立たないと指摘した。

次に、CAFCは、「クレーム解釈における検討に対して高い関連性があり」且つ「争われている用語の意味に対する唯一の最良の指針」であるとして、明細書を参照した。ここでCAFCは、明細書では、「全体的に又は完全にヒトである」と「部分的にヒトである」とが対比されていることを指摘した。例えば、明細書には、「本発明の抗体は、部分的にヒト(好ましくは完全にヒト)のモノクローナル抗体を含むが、これに限定されない」と記載されている。明細書の他の箇所では、「所望の抗体は少なくとも部分的にヒトであり、好ましくは完全にヒトである」と記載されている。

更に別の例として、CAFCは、明細書にある以下の記載を参照した。

抗体を作製する方法は、トランスジェニックマウスのような非ヒト動物をIL-4Rポリペプチドで免疫化することを含み、それにより、該動物においてIL-4Rポリペプチドに対する抗体が作製される。ヒト以外の動物においてヒト抗体(human antibodiesを作製する手順が開発されている。その抗体the antibodiesは、部分的にヒトであってもよく、または好ましくは完全にヒトであってもよい。

以上に基づき、「ヒト抗体」が部分的なヒト抗体及び完全なヒト抗体の両方を包含する広範なカテゴリーであることは明細書から明確である、とCAFCは結論付けた。

次に、CAFCは、487号特許の審査経過を検討した。CAFCは、487号特許と同一ファミリーである別の特許出願において、「完全にヒト」と「ヒト」との両方の用語が同一のクレーム中で使用されていたことを指摘した。

また、CAFCは、出願時のクレーム1では単に「単離された抗体」と記載されていたという事実を指摘した。その後、「ヒト」という語が補正により追加され、それと同時に、「ヒト、部分的にヒト、ヒト化、又はキメラ抗体」との記載を有する従属クレーム11が削除された。これに関してImmunexは、「部分的にヒト」に関する実施形態を放棄するのが補正の意図であったと主張した。CAFCはこの主張を受け入れず、ヒト以外のネズミ科抗体を開示した新規性を否定する引例を回避するために、クレーム1に「ヒト」という語が追加されたのであり、ネズミ科抗体とヒト化抗体とは著しく異なると解することができる、との見解を述べた。CAFCは、拒絶理由の内容からして、完全なるヒト抗体に権利範囲を限定することが明らかに必要であったわけではなく、審査経過に残される証拠からして、問題となっていない発明範囲をImmunexが放棄していると考えた者はいなかった、と結論付けた。このようにCAFCは、審査経緯もまた、審判部によるクレーム解釈を裏付けるものであると結論付けた。

最後に、CAFCは、外的証拠を検討した。CAFCは、外的証拠が役立つ可能性があるのは、内的証拠が曖昧であり更なる指針が求められる場合である、という点を指摘した。本事案の場合、Immunex側の専門家の証言、製品カタログ、提出された論文が、内的証拠と矛盾する部分については、外的証拠の内容は内的証拠により否定される、との判断をCAFCは示した。

以上に基づいて、CAFCは、487号特許が自明性を理由として無効であるとした審判部の判決を支持した。

 

 本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/19-1749.OPINION.10-13-2020_1667763.pdf

本欄の担当
伊東国際特許事務所
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋

米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔

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