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クレーム中の“a”の解釈に関するCAFC判決および米国AI特許動向 ABS Global, Inc. v. Cytonome/ST, LLC (Fed. Cir. Oct. 19, 2023) & Artificial Intelligence (AI) trends in U.S. patents

20231019日付で、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)により、クレーム中の”a”の解釈に関する判決が出されましたまた米国特許商標庁は米国でのAI特許に関する動向を示す資料を2022年に公表しています。 

 

 

ABS Global, Inc. v. Cytonome/ST, LLC (Fed. Cir. Oct. 19, 2023)

当該判決において、連邦巡回控訴裁判所 (CAFC) は、先行技術により新規性がないとするクレーム拒絶にあたり、名詞の前に「a」又は「an」を用いることで、別段の定めがない限り、当該フレーズが「一つ又は複数」を意味すると解釈される必要があるという原則を再確認している。

 

<背景>

マイクロ流体デバイスは、流体の移動に小さなチャネルを採用している。流体には、細胞、分子、その他デバイスユーザが関心を寄せる粒子が含まれ、デバイスユーザは、それらの分類、カウント、分析、又はテストを行う。

Cytonome/ST, LLCは、米国特許第10,583,439 (439特許) を保有している。439特許は、上記デバイスにおいて、サンプル流体のフローを他の流体を使用して絞り込む (「流体力学的絞込み」-hydrodynamic focusing-) に関する。第一の流体をマイクロチャネルに導入し、次に第二の流体を同じマイクロチャネルに導入すると、これら二つの流体は混合されずに「層流」 (平行層) として移動する。「シース流」は、粒子を含むサンプル流体の層が、粒子を含まないシース流体の層によって一つ以上の側面に突き合わされている層流の一種である。絞込み流体 (シース流体) を導入してサンプル流体を「絞込む」 (圧搾して閉じ込める) ことにより、デバイスユーザは、検査その他の用途のため粒子を流路の所定箇所において正確に (例えば一列に) 配置することができる。439特許の図3Aは、絞込み装置 (サンプル流体としてS、シース流体としてSF、チャネルとしてCL) を示している。

image

439特許のクレーム1は以下のとおりである。

 

1. A microfluidic assembly for use with a particle processing instrument, the microfluidic assembly comprising:

a substrate; and

a flow channel formed in the substrate, the flow channel having:

an inlet configured to receive a sample stream;

a fluid focusing region configured to focus the sample stream, the fluid focusing region having a lateral fluid focusing feature, a first vertical fluid focusing feature, and a second vertical fluid focusing feature, the lateral, the first vertical, and the second vertical fluid focusing features provided at different longitudinal locations along the flow channel, wherein a bottom surface of the flow channel lies in a first plane upstream of the first and second vertical fluid focusing features and the bottom surface of the flow channel shifts vertically upward to lie in a second plane downstream of the first and second vertical focusing features; and

an inspection region at least partially downstream of the fluid focusing region.

 

ABS Globalは、米国特許商標庁の特許審判部 (Patent Trial and Appeal Board) に対し、439特許のクレーム1の特許性について当事者系レビューを申し立て、当該クレーム1は先行技術により新規性がないと主張した[1]。特に、ABSは「サンプルストリームを絞り込むように構成された流体絞込み領域」が引例Simonnet[2]によって教示されていると主張した。当該引例は、中間部にギャップを有するスプリットサンプルストリームを開示する文献である。

クレームの解釈において、特許審判部は、クレームの「サンプルストリーム」は複数のストリームやスプリットストリームを含まない単数のみを意味すると判断した。すなわち、特許審判部は、対象クレームについて、サンプルのエントリーから検査までのサンプルストリームが一つしかないことを要件としていると解釈した。特許審判部は、Simonnetのデバイスではスプリットサンプルストリームしか生成されないという理由のみで、ABSの新規性なしとの申立てを認めなかった。

ABSは、特許審判部の決定を不服としてCAFCに上訴した。特に、ABSは、クレーム1の争点となっている文言を単一のサンプルストリームに限定した特許審判部のクレーム解釈に誤りがあったと主張した。

 

CAFC判決>

本件の判断において、CAFCは、オープンエンドのクレーム (例えば、comprisingと記載するクレーム) で対象物を示す名詞の前に「a」又は「an」を使用することにより、十分に別段の定めをしない限り、そのフレーズを「一つ又は複数」を意味するものと解釈する必要があると判示した先例[3]を再確認した。CAFCは、例外として考えられるのは、クレーム自体の文言、明細書、又は審査経過により、上記原則からの逸脱が必要とされる場合のみであると指摘した。

更に、CAFCは、明細書に次のような文面が含まれていることに言及している。

 

“For the purposes of the present disclosure, the term ‘a’ or ‘an’ entity refers to one or more of that entity.  As such, the terms ‘a’ or ‘an’, ‘one or more’ and ‘at least one’ can be used interchangeably herein.”

 

CAFCはまた以下の判断を示している。すなわち、(i) 審査経過において、複数を許容することを否定する根拠となるものはない、(ii) 明細書は、サンプルストリームに関して複数を許容することを明確かつ明らかに否認していない、(iii) 明細書が記述する具体的な実施形態 (単一のストリームを示す) は、本発明を限定することを意図しない単なる例として示されている、と判断した。

このようにして、CAFCは、特許審判部のクレーム解釈を覆し、「サンプルストリーム」は、単一のサンプルストリームに限定されるものではないと判示した。また、この解釈に基づき、クレーム1は引例Simonnetによって新規性がないと結論付けた。

 

<留意すべきポイント>

本件は、対象特許クレームの「a sample stream」が複数を許容する表現と解釈されて、先行技術により無効にされたという判決です。

出願人/特許権者にとって、あるクレーム用語を、先行技術を回避するために単数のみと解釈するか、侵害製品をカバーするために複数を許容するものとして解釈するか、のいずれが有利かを判断することには困難が伴います。そこで、対策の一例として、一の独立クレームにおいて複数を許容する用語を使用し、他の独立クレームにおいて単数に限定する用語を使用することが考えられます。

出願のドラフト段階又は審査の過程でどのようなクレーム解釈が望まれるか明らかになっている場合、クレーム文言の選択に注意するとともに、本件で示されているような文面その他の定型文[4]を作成・活用する、特定のクレーム用語に関して明細書に定義を含める等して、希望の結果が得られるようにすることも考えられます。先行技術に基づく拒絶に対する応答書において、出願人が望ましいと考えるクレーム解釈を念頭に置いた陳述を行うことも重要です。

なお、本件に関しては、複数を許容する解釈の前提として、クレームはオープンエンド形式 (例えば、comprisingと記載するクレーム) であった点にも留意が必要です。

 

 本件記載の判決文(CAFC判決)は以下のサイトから入手可能です。

21-1985.OPINION.9-21-2023_2193832.pdf (uscourts.gov)

 

 

米国におけるArtificial Intelligence (AI) 特許の動向

 米国特許商標庁はAI[5]特許に関する動向をまとめた資料を2022年に公開しました[6]

 

·         以下のチャートは、過去20年以上にわたり、AI出願の数が大きく上昇していることを示しています。

 
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·         AIテクノロジーの様々な部門の中で、プランニング/コントロール、知識処理、ヴィジョン、AIハードウェア、及びマシンラーニングで大きな上昇が見られます。

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·         AI出願の許可率は、AI以外の出願と比較して、類似する傾向を示しています。

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·         最後に米国及び上位5ヵ国(日本、中国、韓国、ドイツ、英国)の譲受人による米国AI特許登録数の推移を示します。右側のチャートは左側のチャートにおける5ヵ国のデータを拡大して示したものです。

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[1] 439特許の他のクレームも争われたが、ここでは論じないことにする。

[2] Claire Simonnet & Alex Groisman, High-Throughput and High-Resolution Flow Cytometry in Molded Microfluidic Devices, 78 Analytical Chemistry 5653 (2006).

[3] Lite-Netics, LLC v. Nu Tsai Capital LLC (Fed. Cir. 2023); Salazar v. AT&T Mobility LLC (Fed. Cir. 2023); Convolve, Inc. v. Compaq Computer Corp. (Fed. Cir. 2016); Baldwin Graphic Systems, Inc. v. Siebert, Inc. (Fed. Cir. 2008).

[4] 特許明細書における定型文の代表例として、「本発明の内容が実施例に限定されない」ことを確認する文面等がありますが、boilerplate languageと呼ばれています。

[5] AIテクノロジーは、知識処理、スピーチ、AIハードウェア、進化的計算、自然言語処理、マシンラーニング、ヴィジョン、プランニング/コントロールを含むものとして定義されています。

[6] 全容は以下のサイトでご覧頂くことができます。

本欄の担当
伊東国際特許事務所
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
米国特許弁護士 加藤奈津子
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