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外国の判決・IP情報速報

中国専利審査指南の改正の速報

昨年2023年12月21日に中国国家知識産権局(CNIPA)は、中国専利審査指南の改正を公表しました。

 また、今回改正後の中国専利審査指南は、今年2024年1月20日より施行されました。

 

 今回の改正のポイントは以下の通りです。なお、「専利」は、特許、実用新案、意匠を含むものとし、「改正中国専利法実施細則」を「細則」と略します。

 

<専利法全般>

1.信義則に関する改正(細則第11、50、59、69、88、100条)

(1-1)方式審査において

    信義則に反する場合、例えば、虚偽の証明資料を提出した場合、審査官は関連手続を未提出とみなす通知を発行する。(第I部第1章第6..5節)

(1-2)実体審査において

    信義則違反は、拒絶理由として挙げられている。(第II部第8章第6..2節)

    また、拒絶査定不服審判において、合議体は、信義則違反に関する瑕疵を職権で審査することができる。(第IV部第2章第4.1節)

(1-3)無効審判において

    権利の取得が信義則に明らかに反する場合、合議体は職権で無効理由として審査することができる。(第IV部第3章第4.1節)

 

2.優先権主張に関する改正

(2-1)優先権主張の回復

    通常の特許出願又は実用新案出願の場合(第I部第1章6...2節、細則第36条)

ü  出願が最先の優先日から12~14ヶ月以内にされたときは、出願人は、優先日から14ヶ月以内に回復請求書及び優先権書類の認証謄本等を提出し、理由を説明することを条件として、優先権の回復を請求することができる。なお、この優先権主張回復を規定した細則第36条には「正当な理由をもって」という文言があるが、対応する指南には「正当な理由」について言及されていない。

    PCT国内段階出願の場合(第III部第1章5..5節、細則第128条)

ü  受理官庁により承認された優先権回復請求に対応した、最先の優先日から14ヶ月以内に提出された国際出願の優先権は、中国ではそのまま認められる。回復の請求の手続は不要。

ü  国際段階において優先権が回復されなかった場合、出願人は、正当な理由を提出することにより、国内出願日から2ヶ月以内に優先権の回復を請求することができる。なお、この優先権主張回復を規定した細則第128条と、それに対応する指南との両方には「正当な理由」が規定されているが、「正当な理由」がどのようなものであるかについては特に説明がない。

(2-2)優先権主張の追加・補正(第I部第1章6..3節、細則第37条)

    出願時に優先権を主張している場合、出願人は、最先の優先日から16ヶ月以内に優先権主張の追加又は補正を請求することができる。

 

3.権利期間の調整に関する改正(細則第77~84条)

(3-1)専利の権利期間調整(PTA)(第V部第9章第2節)

    出願日から4年後且つ実体審査請求日から3年後に付与された特許に適用される。

    登録日から3ヶ月以内に請求する。

    CNIPA由来の不合理な遅延から出願人由来の不合理な遅延を除いた期間分、権利期間が延長される。「出願人由来の不合理な遅延」とは、庁通知に対する応答期間の延長、繰延審査の請求、権利回復の請求、参照による援用、PT国内移行手続[1]による遅延のこと。

    不利益処分前に一度、審査官は意見書及び/又は補正書類の提出の機会を与える。

    特実併願において、実用新案権の放棄により特許権を取得した場合、当該特許は、PTAの適用対象外。(細則第78条第4項)

(3-2)医薬品専利の権利期間延長(PTE)(第V部第9章第3節、細則第80~84条)

    特許権の有効期間内に新薬の審査及び承認に費やされた時間を補うために新たに導入された制度である。(専利法第42条第3項)

    適用対象:新薬に係る薬理活性成分に係る製品、製法、医薬用途の専利。「新薬」とは、薬品監督管理部門の関連規定で定められた、創薬医薬、改良医薬のこと。(第3.4節)

    適用条件(第3.1節、細則第81条)

ü  権利付与公告日は、薬品の承認日よりも前。

ü  PTEの請求時に権利有効。

ü  PTEが付与されたことがない。

ü  クレームには、承認された新薬に関連する技術案が含まれている。新薬に関連する技術案とは、国務院薬品監督管理部門に承認された新薬の構造、成分及び含有量、並びに承認された製造方法及び適用症状をいう。(第3.5節)

ü  一つの新薬に同時に多数の専利が存在する場合、一つの専利のみに対して請求可能。

ü  一つの専利が同時に多数の新薬に及ぶ場合、一つの新薬のみに対して請求可能。

    不利益処分前に一度、審査官は意見書及び/又は補正書類の提出の機会を与える。

 

4.繰延審査に関する改正(細則第56条第2項、第V部第7章第8.3節)

(4-1)実用新案

    新たに適用対象となった。

    審査を繰延べる期間として1年に設定可能(特許は年単位で設定可能であり最長3年)。

    出願の提出と同時に提出する(意匠と同様)。

(4-2)意匠

    月単位で設定可能であり最長36ヶ月(改正前は年単位で)。

(4-3)手続の取下げ

    繰延審査期間の満了前に、出願人は取下げ可能。

 

5.専利開放許諾制度(オープンライセンスに関する制度)に関する改正(細則第85~88条、第V部第11章)

(5-1)運営の原則(第2節)

    任意原則、合法原則、公開原則。

(5-2)開放許諾宣言に明記すべき事項(第3.3節)

    権利番号、権利者の氏名又は名称、ロイヤルティの支払方法及び基準、許諾期間、特許権者の連絡先、特許権者の許諾条件満足に対する保証等。

    ロイヤルティ算出の根拠及び方法について、2000文字以内の簡潔な説明を併せて提出しなければならない。

(5-3)宣言の撤回

    専利権者は、開放許諾中の専利権について、実施細則に照らして開放許諾すべきでない事情がある場合には、主体的に速やかに開放許諾宣言を撤回し、同時に実施権者に通知が必要。

    専利権の譲渡を除き、専利権者がその他の理由で変更し、開放許諾を継続して実施する場合、元の開放許諾宣言の撤回および再宣言のための手続きを適時に行い、変更後に開放許諾を実施しない場合、元の宣言の撤回手続きを適時に行う。

(5-4)外国人/外国企業に関する対処措置

    ライセンサーが中国国内の企業/機関/部門又は個人の場合は、外国人や外国企業等がライセンシーになるには、関係法令(「技術輸出入管理条例」等)の規定に合致する必要がある。

 

6.専利権評価報告書に関する改正(細則第62~63条、第V部第10章)

    請求の主体は、被疑侵害者まで拡大されている。(細則第62条第1項)

    出願人が請求する場合、請求可能な時期は、従来は特許権者として権利付与という旨の決定が公告された後であったが、今回の改正により登録手続を行うときまでに繰り上げられている。(細則第63条第1項)

    専利権者からの弁護士書簡や電子商取引プラットフォームからの苦情通知等を受け取った法人又は個人は、被疑侵害者に該当する。(第2.2節)

    被疑侵害者が専利権評価報告書を請求する場合、請求書とともに(被疑侵害者であることの)証拠書類を提出する必要がある。(第2.3節)

 

<各種分野>

1.特許に関する改正

(1-1)方式審査、実体審査及び審判

    記載の方式的要件の緩和(第I部第1章4.3節)

ü  図面は、カラーであってもよい。

ü  発明の名称は、60文字以内でよい(改正前は40文字以内)。

    進歩性を評価する際の手法(第II部第4章3...1節)

ü  最も近い先行技術を特定する際に、まずは技術分野が同じ又は近い先行技術を考慮しなければならない。そのうち、発明が解決しようとする技術的課題と関連がある先行技術を優先に考慮すべきである。

ü  一原則として、区別的な技術的特徴が発明において達成し得る技術的効果は、当該発明が実際に解決する技術的課題の再確定の基礎となってもよい。

ü  機能上互いに支持して相互作用関係を有する技術的特徴は、それらによって達成される技術的効果を確定する際に、全体として考慮しなければならない。

ü  発明の全ての技術的効果が最も近い先行技術に一致する場合、実際の技術的課題は、最も近い先行技術とは異なる代替技術を提供することである。

ü  実際の技術的課題は、区別的な技術的特徴が発明において達成し得る技術的効果と一致しなければならず、区別的な技術的特徴そのものであってはならず、区別的な技術的特徴に関する教示又は示唆を含んではならない。

    単一性欠如の拒絶に対する補正制限の緩和(第II部第8章4.4節)

ü  単一性欠如の拒絶を受けた場合、出願人は、自らの意思でクレームを削除したり補正したりすることができる。換言すれば、従来はシフト補正が禁止されていたが、今回の改正により、単一性欠如の拒絶理由さえ解消できれば、シフト補正であってもよいようになっている。

    拒絶査定不服審判における前置審査(第IV部第2章第3.1~3.3節)

ü  不服審判請求書は、方式審査を経て審査部門に転送される。審査部門は、前置審査を行って、前置審査意見を提示する。改正前は、拒絶査定を発行した元の審査部門に転送されて審査されるようになっていた。すなわち、前置審査は、必ず従来のように元の審査部門又は元の審査官が審査するとは限られず、他の審査部門又は他の審査官が審理することも可能となる。

    無効審判における補正(第IV部第3章4..1節、4..2節)

ü  特許又は実用新案のクレームの補正は、無効審判の請求の理由又は合議体が指摘した欠陥に対して行わなければならない。すなわち、クレームは自発的に補正することができないことが明確にされた。

    漢方薬に関する特許の審査(第II部第11章、新設)

 

(1-2)コンピュータ実施発明(第II部第9章)

    「記憶媒体」に続き、「プログラム製品」も対象となった。

    クレームの書き方としては、「プロセサによって実行されるとき、請求項1に記載の方法の手順を実現するプロブラムを含む、プログラム製品」が例示されている。(第5.2節)

    クレームに記載のディープラーニング、分類又はクラスタリング等のAI又はビッグデータのアルゴリズムに関する技術案は、コンピュータシステムの内部構造と特定の技術的関連性を有し、如何にしてハードウェアの算出の効率又は実行の効果を向上させるという技術的課題(データの保存量や伝送量の削減、ハードウェアの処理スピードの向上など)を解決することで、自然の法則に適合したコンピュータシステムの内部性能の向上という技術的効果を奏する場合には、特許適格性が認められる。(第6.1節)

(1-3)パテントリンケージにおける無効審判手続(第IV部第3章第9節)

    後発医薬品の請求人が先発医薬品に対する無効審判を請求する場合、パテントリンケージに関する案件であることを明記した請求書とともに、証拠書類を提出する必要がある。

    同一専利への多数の無効審判請求の場合、時系列に応じて対応する。

 

2.実用新案に関する改正

    実用新案出願の審査には、明らかに進歩性が欠如しているか否かについても含まれるように改正された。(第I部第2章第11節)

 

3.意匠に関する改正

(3-1)部分意匠(第I部第3章第4.4節)

    物品全体の図面を提出し、点線+実線又はその他の方法で保護しようとする部分を明示しなければならない。その他の方法で明示する場合、簡単な説明において保護しようとする部分を説明する。

    部分意匠は、物品の表面上の模様、又は模様と色彩の組合せのみの意匠である場合には、登録を受けることができない。

    物品において相対的に独立した領域を形成できない場合、又は相対的に完全な意匠単位を構成していない場合、部分意匠として登録を受けることができない。

    機能又は意匠が関連して、特定の視覚的効果を生じる場合、同一物品の相互に関連性を有しない2以上の部分意匠を1つの意匠として出願することができる。

    組物意匠は、部分意匠を含むことができない。(第I部第3章第9節)

    補正の制限(第I部第3章第10.1節)

ü  出願日から2ヶ月以内の自発補正可能な期間を超えた補正は、不備を解消し、登録の見込みがある場合には認められる。

ü  ただし、全体意匠から部分意匠への補正、部分意匠から全体意匠への補正、同一の全体物品のある部分から別の部分への補正は、対象外。

(3-2)GUI意匠(第I部第3章第4.5節)

    全体意匠又は部分意匠として保護できる。

    GUIを適用した物品の外観を示す図面を提出する場合には、少なくとも物品の正面図の提出と、創作の要点がGUI(の一部)である旨の記載が必要。

    GUIの図面のみを提出する場合には、物品の名称に「電子機器」等の語を含むことが必要。

    部分意匠の場合、保護しようとする部分の明記が必要:例えば、「電子機器のモバイル決済用GUIの検索欄」等。

    動的なGUIの場合、物品名に「動的」の語を含む必要がある。CNIPAは必要に応じて、出願人に、当該動きが明らかになる動画ファイルの提出を求めることができる。

(3-3)ハーグ協定による意匠の国際登録出願(第VI部)

    拒絶理由通知に対する出願人の応答期限は、4ヶ月。(第V部第7章第1.2節)

    新設された第VI部は、第1章の「意匠の国際登録出願の事務処理」と第2章の「意匠の国際登録出願の審査」を含む。

    国際登録日は、中国特許法にいう「出願日」とみなされる。(第1章第3.1節)

 

<その他>

    15日間の郵送猶予期間は、2024年1月20日以降に電子的に発行された公式通知については適用されない。

    新規性喪失の例外適用要件の緩和(第I部第1章6..3節、細則第33条)

ü  「学術会議又は技術会議」の範囲の拡大:国務院関係主管部門の承認した国際組織が主催した学術会議又は技術会議が含まれるようになった。

ü  証拠関する要件の緩和:会議の主催者による証明は不要となった。

 

 なお、今回改正後の中国専利審査指南(2023)の詳細(中国語)は、 https://www.cnipa.gov.cn/art/2023/12/21/art_99_189202.html にて入手することができます。



[1] 優先日から30ヶ月以内に中国国内段階への移行手続きを行った国際出願において、出願人が早期処理を要求しなかった場合、中国国内段階への移行日から優先日から30ヶ月満了となった日までの期間は、出願人による不合理な遅延とみなされる。

本欄の担当
伊東国際特許事務所
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
意匠部部長・弁理士 木村 恭子
担当:中国弁理士 羅 巍
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