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人工知能を用いた発明の発明者要件に関するUSPTOガイダンス
2024年2月13日、米国特許商標庁 (以下USPTO) は、人工知能 (以下AI) の支援を得て行われた発明に関する発明者をどのように分析するかについてガイダンス[1]を発表しました。
当該ガイダンスにおいて、USPTOは2022年の連邦巡回控訴裁判所 (以下CAFC) のThaler v. Vidal判決[2]の順守を再確認しました。当該判決において、CAFCは、発明者は自然人でなければならないと判示しています。そのため、出願データシート、発明者の宣誓書・宣言書、宣誓書等の代替としての発明者又は共同発明者による陳述書にマシンの名前を記載した特許出願は、USPTOによって不適切な発明者とみなされます[3]。
また、USPTOは、自然人がAIシステムを使用した場合に、「発明がその後の実施化にあたり完成されかつ運用可能であり、発明に関する明確かつ恒久的なアイデア」に重要な貢献をしていれば、当該自然人が発明者となる資格を妨げるものではないことを確認しました。
AIを用いた発明に対する自然人の貢献が重要であるかどうかを判断するにあたって、当該ガイダンスは、CAFCがPannu v. Iolab Corp判決[4]において示したファクタが適用されるとしています。特に、USPTOは、当該ファクタの適用を通知するにあたり、以下の原則をアナウンスしました。
1) 自然人がAIを用いた発明を行う際にAIシステムを使用しても、当該自然人の発明者としての貢献を否定するものではない。
2) 単に問題を認識したり、追求すべき一般的な目標や研究計画を有しているだけでは、着想のレベルに達しない[5]。AIシステムに問題を提示するだけの自然人は、AIシステムのアウトプットにより特定された発明の適切な発明者又は共同発明者ではない可能性がある。ただし、AIシステムから具体的な解決策を引き出すために、特定の問題を考慮したプロンプトを作成した場合、重要な貢献をしたとみなされる可能性がある。
3) AIシステムのアウトプットを発明として認識・評価するだけの自然人は、特にアウトプットの特性と実用性が当業者にとって明らかな場合、必ずしも発明者とは言えない。一方、AIシステムのアウトプットを取り出し、そのアウトプットに対して重要な貢献をして発明を行った人は、適切な発明者である可能性がある。
4) クレーム発明の本質的な構成要素を開発する自然人は、クレーム発明の着想につながる各活動に出席していなかった又は参加していなかった場合でも、クレーム発明の着想に重要な貢献をしたとみなされる可能性がある。状況によっては、具体的な解決策を引き出すために特定の問題を考慮してAIシステムを設計、構築又は訓練する自然人は、AIシステムで創出された発明に対して、そのようなAIシステムの設計、構築又は訓練が重要な貢献をする場合、発明者であり得る。
5) AIシステムに対する “intellectual domination” を維持することだけでは、AIシステムの使用によって生み出された発明の発明者とはならない。従って、発明の着想に重要な貢献をすることなく、発明の創出に使用されるAIシステムを単に所有又は監督している人は発明者ではない。
また、当該ガイダンスでは、審査段階でクレーム事項に対する貢献が発明者のレベルに達していないと判断された場合、37 CFR 1.48又は1.324に従って発明者を修正すべきであると指摘しています。特定のクレームに関する発明者を訂正できない (すなわち、クレーム発明に重要な貢献をした自然人がいない) 状況の場合、当該クレームを削除又は補正しなければならないとしています。
最後に、USPTOは、出願人が発明者に関する情報を提出する必要がある場合は稀であり、当該ガイダンスは開示要件に大きな影響を与えるものではないという考えを表明しています。また、当該ガイダンスは、宣誓書又は宣言書の手続を変更するものではないが、一又は複数の発明者がクレーム事項に重要な貢献をしていない可能性があると結論付ける合理的な根拠がある場合、審査官は発明者に関する情報を要求することができるとしています。
当該ガイダンスとUSPTOによって提供される2件のサンプル例を以下のリンクでご覧いただくことができます。
https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/ai-inventorship-guidance-mechanical.pdf
https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/ai-inventorship-guidance-chemical.pdf
[1] 当該ガイダンスは、2024年2月13日、それ以前及びそれ以後に出願されたすべての出願及び特許に適用される。
[2] Thaler v. Vidal, 43 F.4th 1207, 1213 (Fed. Cir. 2022)
[3] 共同発明者として自然人と非自然人の両方を記載する外国出願を優先権主張の基礎とする米国出願の場合、米国出願とともに提出された出願データシートには、当該外国出願と共通のものを含めて、発明に重要な貢献をした自然人のみが発明者として記載されなければならない。
[4] Pannu v. Iolab Corp., 155 F.3d 1344, 1351 (Fed. Cir. 1998)
[5] 当該ガイダンスは、着想は発明者の “touchstone” であり、人間が他によって考案された発明の実施化に重要な貢献をしたという事実は、発明者とするのに十分ではないと指摘している。
- 本欄の担当
- 伊東国際特許事務所
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 加藤奈津子