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米国特許商標庁(USPTO)によるAI関連発明に係るクレームの特許適格性に関する更新版ガイダンスに関して(2024年7月17日)

米国特許商標庁(USPTO)は、2024年7月17日に、AI関連発明に係るクレームの特許適格性を評価するための審査官および関係者向けの更新版ガイダンスを発表しました。

 

当該更新版ガイダンスは、USPTOによって以前に発表されたガイダンス[1]に記載された法的枠組みを再確認するものです。「精神的活動」(“mental process”)としての抽象的概念の分類に関して、当該ガイダンスは「人間の心の中で実際に実行できない方法としてのAIのみを包含しているクレームに記載された限定は、この分類には該当しない」と強調しています。

 

また、当該更新版ガイダンスは「多くのAI発明に関するクレームは、コンピュータの機能改善や他の技術または技術分野における改善として特許適格性を有する」とも述べています。

 

特に、当該更新版ガイダンスでは以下のように述べられています。

 

AI発明に関して考慮すべき重要なポイントは、明細書に記載されたコンピュータや他の技術の改善を反映するクレーム(特許適格性を有するクレーム)と、特許適格性を有しないクレームとの区別であり、ここで特許適格性を有しないクレームとは、(1)追加の要素が「適用する」(“apply it”)といった文言(または同等の文言)の記載であるに過ぎない、または追加の要素が司法例外をコンピュータ上で実行する指示であるに過ぎないクレーム、または(2)追加の要素が司法例外の使用を特定の技術的環境または使用分野に単に結び付ける一般的な関連付けであるに過ぎないクレーム、である。例えば特定の技術分野へのAIの具体的な応用(例:問題への特定の解決方法)をクレームに記載する場合、AI発明は、望ましい結果を達成するための特定の方法を提供することができる。これらの場合、クレームは、単に解決策や結果に関するアイデアではなく、司法例外を単に「適用する」、或いは応用分野または技術的環境に司法例外を一般的に結び付けることを超えるものである。言い換えれば、クレームはコンピュータや他の技術の改善を反映している。

 

当該更新版ガイダンスは、一例として、裁判所の判決を示しています。この判決では、心房細動や心房粗動の拍動ごとのタイミングの変動を分析し、これらの心臓病の発生をより正確に検出する心臓モニタリング装置に関するクレームが、心臓モニタリング技術の改善に向けられており、抽象的なアイデアではないと判断されました。

 

また、当該更新版ガイダンスは、既存の枠組みの下で、特許適格性を有する、および特許適格性を有さないとされるクレームの多くの新しい例を提供しています。これらには仮想の例や2019年のガイダンス発表後に出された裁判所の判決に基づく例が含まれています。

 

当該更新版ガイダンスに含まれる例47のクレーム3は以下の通りです:

    1. A method of using an artificial neural network (ANN) to detect malicious network packets comprising:

(a) training, by a computer, the ANN based on input data and a selected training algorithm to generate a trained ANN, wherein the selected training algorithm includes a backpropagation algorithm and a gradient descent algorithm;

(b) detecting one or more anomalies in network traffic using the trained ANN;

(c) determining at least one detected anomaly is associated with one or more malicious network packets;

(d) detecting a source address associated with the one or more malicious network packets in real time;

(e) dropping the one or more malicious network packets in real time; and

(f) blocking future traffic from the source address.

 

以下クレーム3の和訳:

悪意のあるネットワークパケットを検出するために人工ニューラルネットワーク(ANN)を使用する方法であって、

(a) 入力データ、および学習済みANNを生成する選択された、バックプロパゲーションアルゴリズムおよび勾配降下アルゴリズムが含まれる学習アルゴリズムに基づいて、コンピュータがANNを学習させ、

(b) 学習済みANNを使用してネットワークトラフィックの異常を検出し、

(c) 検出された少なくとも1つの異常が悪意のあるネットワークパケットに関連していることを判断し、

(d) 悪意のあるネットワークパケットに関連する送信元アドレスをリアルタイムで検出し、

(e) 悪意のあるネットワークパケットをリアルタイムで削除し、

(f) 送信元アドレスからの将来のトラフィックをブロックする、方法。

 

当該ガイダンスは、「ステップ(a)はANNの学習を実行するための特定の数学的計算(バックプロパゲーションアルゴリズムおよび勾配降下アルゴリズム)を提供している、従って数学的概念を包含している」と示しています。また、ステップ(b)および(c)は「観察、評価、判断および見解を含む概念をカバーしているため、抽象的概念の精神的活動としての分類に該当する」と示しています。

 

しかし、当該ガイダンスは、ステップ(d)から(f)が「潜在的に悪意のあるパケットに関連する送信元アドレスを検出することで、危険を軽減するための積極的な措置を講じてセキュリティを強化するための情報を提供し、ネットワークセキュリティを改善する」ことから、クレーム3が特許適格性を有する、と示しています。具体的には、ステップ(d)で悪意のあるネットワークパケットに関連する送信元アドレスをリアルタイムで検出し、ステップ(e)で潜在的に悪意のあるパケットを削除し、ステップ(f)で将来のトラフィックをブロックすることが改善を反映している、と示しています。

 

当該ガイダンスは、35 U.S.C. 101に基づく拒絶を回避するための方法として、コンピュータ自体または他の技術や技術分野における改善に重点を置いていることを考慮しますと、明細書作成の際には、これらの改善に注意を払うべきであると考えます。

 

この点に関して、特許審査便覧(MPEP)のセクション2106.05(a)には「コンピュータの従来の機能または従来の技術や技術プロセスを改善することを発明として主張する場合、その発明を実施する方法に関する技術的な説明が明細書に含まれている必要がある。つまり、開示は、クレームされた発明を当業者が改善として認識するのに十分な詳細を提供しなければならない」と記載されていることにもご留意ください。

 

当該更新版ガイダンスおよび例については、以下のリンクで確認できます:

https://www.federalregister.gov/public-inspection/2024-15377/guidance-2024-update-on-patent-subject-matter-eligibility-including-on-artificial-intelligence

 

https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/2024-AI-SMEUpdateExamples47-49.pdf

[1] 2019年に、米国特許商標庁(USPTO)は「2019年改訂特許適格性ガイダンス」(2019 PEG)および「2019年10月特許適格性更新版ガイダンス」(2019年10月更新版)を発表しました。これらのガイダンスは現在、特許審査便覧(MPEP)のセクション2103-2106.07に反映されています。

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬佑輔

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