• トップ
  • 最新IP情報
  • 「中国で完成した発明の判断」に関する中国最高人民法院判決(2022)最高法知行終255号
最新IP情報

最新IP情報

外国の判決・IP情報速報

「中国で完成した発明の判断」に関する中国最高人民法院判決(2022)最高法知行終255号

1.概要

 本判決において、中国最高人民法院は、「(1)既に登録された特許が特許法の秘密保持審査に関する規定に違反することによって無効とすべきか否かを判断する場合、中国特許出願に先立って外国で出願された特許出願の技術案の実質的な内容が中国で完成されたか否かを審査する必要がある。したがって、原則として外国に出願された特許出願を審査の基礎とすべきである。中国特許出願と外国特許出願との技術案が実質的に同じであると確認できた場合、中国特許出願を審査の基礎とすることができる。(2)秘密保持審査は、特許請求の範囲に記載された内容に限定されず、特許出願の全文を対象にすべきである。(3)技術案の実質的な内容の完成地を特定する場合、事件の証拠に基づいて、技術案の形成過程、発明者が技術案の実質的な内容を完成した時の所在地などを審査し、属する技術分野の技術開発速度を参照して、総合的に判断すべきである」と判示しました(判決日2024年3月14日)。

 

2.背景

(1)対象特許出願について

 本件に係る対象特許出願は、発明の名称が「体外医療診断装置及びシステム」、特許権者が米国企業であり、特許番号が「201310322059.8」、出願日が2013年7月29日、優先権日が2012年12月6日、特許公告日が2015年10月14日である。

 当該対象特許出願の優先権の主張の基礎とされた先の出願は、米国(US)へ出願したものである。

(2)本件の経緯

 万某会社は、2018年6月14日に、本件特許権に対する無効審判を提起し、「当該特許出願は、広東省のある科学研究プロジェクトの成果によるものであるにもかかわらず、当該米国企業が秘密保持審査を請求せずに、中国で完成した当該発明を外国へ特許出願したうえで、その外国特許出願について優先権を主張して中国へ出願したものであるため、中華人民共和国特許法(以下「特許法」という)第20条第1項及び第4項の規定に違反する」と主張した。

 国家知識産権局は、当該無効審判請求に対して、次のように審決を下した。当該対象特許出願の実質的な内容は、中国での科学研究プロジェクトの開始よりも早い2010年上半期に海外で完了したものであり、当該プロジェクトは、関連技術案の産業化プロセスである。当事者が提出した証拠によれば、当該対象特許出願に係る発明が中国で完成されたことを確認することができなかったため、本件の特許権の有効性を維持する。

 万某公司は、上記の国家知識産権局による審決を不服として北京知識産権法院(「第一審法院」と略称)に行政訴訟を提起したが、第一審法院による判決では、同社の請求が棄却された。

 これに対して、万某公司は、上記の第一審法院による判決を不服として、中国最高人民法院に上訴した。

 

3.争点及び中国最高人民法院の判断

 争点:対象特許出願の特許出願行為が特許法の第20条の第1項及び第4項の規定に違反するか否かということである。具体的には、技術案の実質的な内容が中国で完成されたか否かということである。

 

 中国最高人民法院は、対象特許出願は、その技術案の実質的な内容が中国で完成されたものではなく、その特許出願行為が特許法の第20条第1項及び第4項の規定に違反するものではないと判断し、第一審法院による判決を維持した。

 その理由は、次の通りである。

 

 2008年に改正された特許法第20条第1項には、「いかなる団体又は個人が国内で完成した発明又は実用新案について、外国で特許を出願する場合、まず国務院専利行政部門に秘密保持審査を請求しなければならない。秘密保持審査の手続及び期間等は国務院の規定に準拠する。」と規定されている。また、第4項には、「本条第1項の規定に違反して外国で特許出願した発明又は実用新案について、中国で特許出願した場合、特許権を付与しない」と規定されている。2010年に改正された特許法実施細則第8条第1項には、「特許法第20条に規定する中国で完成した発明又は実用新案とは、技術案の実質的な内容が中国で完成された発明又は実用新案を指す。」と規定されている。

 上記の規定に基づいて、特許出願人が秘密保持審査請求の義務を負うべきか否かを判断する法律上の基準は、技術案の実質的な内容が中国で完成されたか否かということである

 (ア)技術案の実質的な内容の特定について

 特許出願行為が特許法第20条第1項、第4項の規定に違反するか否かを判断する場合、先ず特許出願に係る技術案の実質的な内容を特定すべきである。

 まず、審査の基礎に関しては、既に登録された特許が特許法の第20条第1項、第4項の規定に違反することによって無効とすべきか否かを判断する場合、中国特許出願に先立って外国で出願された特許出願の技術案の実質的な内容が中国で完成されたか否かを審査する必要がある。したがって、原則として外国に出願された特許出願を審査の基礎とすべきである。中国特許出願と外国特許出願との技術案が実質的に同じであると確認できた場合、中国特許出願を審査の基礎とすることができる。

 本件では、各当事者が米国特許出願と当該対象特許出願とが実質的に同じであることを認めたことに鑑み、当該中国特許出願の文書が審査の基礎とされた

 次に、技術案に関しては、秘密保持審査は、国家の安全又は重大な利益に関わる発明が特許出願することによって公開されることを防止するために導入された制度である。したがって、秘密保持審査は、特許請求の範囲に記載された内容に限定されず、特許出願の全文を対象にすべきである

 最後に、実質的な内容に関しては、特許権を付与することによって発明が保護される基礎は、技術革新に対する貢献にある。秘密保持審査に係る「技術案の実質的な内容」とは、発明又は実用新案が従来技術に対して改良した内容であり、このような改良により、発明又は実用新案が解決しようとする技術的課題の解決を可能にし、達成しようとする技術的効果を実現できる。「実質的な内容」の判断において、比較対象となる従来技術は、特許出願の明細書に記載の背景技術であってもよく、特許権者や発明者が述べた発明の起点となる従来技術であってもよい。発明者は、発明創造の実質的特徴に対して創造的な貢献をした者であり、発明者が述べた従来技術が明細書における背景技術よりも特許が保護しようとする技術案に近ければ、発明者が述べた発明点を主な根拠として、技術案の実質的な内容を判断することができる

 (イ)技術案の実質的な内容が中国で完成されたか否かについて

 技術案の実質的な内容の完成地の判断では、事件の証拠に基づいて、技術案の形成過程、技術案の実質的な内容が完了したときの発明者の所在地などを審査し、さらに当該分野の技術開発速度に基づき、総合的に判断すべきである

 本件の場合、当該対象特許出願の発明者がやり取りした電子メールに記録された技術内容に基づいて、広東省の科学研究プロジェクトに記録されたプロジェクトの背景やプロジェクトの進捗状況などを参照し、当該分野の技術開発及び産業化の速度から見て、当該対象特許出願の技術案の実質的な内容が広東省の科学研究プロジェクトが立てられた時点に既に完成されたと認定することができたので、当該プロジェクトは、関連技術案の産業化プロセスと認めるべきであるとされた。

 

4.今後の留意点

 (a)秘密保持審査請求が必要かどうかの判断基準は、発明者や権利者(出願人)の国籍だけではなく、技術案の実質的な内容の完成地である。

 つまり、発明者が外国人であっても、出願人が外国企業であっても、中国国内で完成した発明を外国に出願する場合、秘密保持審査請求をしなければならない。

 さらに、技術案の実質的な内容の完成地は、技術案の形成過程、発明者が技術案の実質的な内容を完成した時の所在地などを審査し、所属する技術分野の技術開発速度を参照して、総合的に判断するものであることに留意されたい。

 (b)技術案の実質的な内容の完成地を判断する際に、上記したように、様々な要素を総合的に考慮する必要があるが、研究開発過程において発生地を明確に記載した文書や会議記録や実験記録など、電子メール、発明の進展状況を示す資料などのものが重要な証拠となるので、大切に保管することが望ましい。

 (c)秘密保持審査の対象が特許の保護を請求する範囲に限定されず、特許請求の範囲、明細書及び図面を含む出願書類の全文が審査の対象にされることに留意されたい。すなわち、請求の範囲に記載されておらず、明細書のみに記載された内容も秘密保持審査の対象に該当する。

 

本件記載の中国最高人民法院の判決(中国語)は以下のサイトから入手可能です。

https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-3401.html

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:Beijing IPCHA 中国弁理士 李 海龍

最新IP情報

PAGE TOP