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欧州 意匠制度の改正について
欧州において、意匠制度が改正され、2024年12月8日に意匠に関する次の2つの規則、指令が施行されることとなりましたので、ご案内申し上げます。
- 共同体意匠に関する理事会規則 (EC) No 6/2002 を改正し、委員会規則 (EC) No 2246/2002 を廃止する欧州議会および理事会規則 (以下「改正規則」)
- 意匠の法的保護に関する欧州議会および理事会の指令 (改正) (以下「改正指令」)
1.改正の目的
今次改正の目的は、主に、(1)意匠保護の現代化、明確化及び強化、(2)意匠保護の利便性の向上、(3)欧州商標規則との調和 及び (4)域内での、スペアパーツ保護の調和です。
2.改正意匠制度の運用開始時期について
「改正規則」は、2024年12月8日から施行され、以下の2段階で運用が開始されます。
第1段階:改正規則の施行日から4か月を経過した後の月の1日(2025年5月1日) ※:以下の3.に記載した変更点は、第1段階での運用開始となります。
第2段階:施行規則や委任規則等の二次規定よって定められるその他の改正は、改正規則の施行日から18か月を経過した後の月の1日(2026年7月1日)
なお、「改正指令」は、「改正規則」とともに発効します。EU加盟国は、「改正指令」施行後36月(2027年12月7日)までに、「改正指令」の内容に沿った国内法の改正が必要となります。
3.改正規則の主な変更点
(1)名称変更
ア 既存の「共同体意匠出願」と「共同体意匠」は、自動的に「EU意匠出願」と「EU意匠」に改正し、
イ 「共同体意匠規則」は「EU意匠規則(EUDR)」に、「登録共同体意匠」は「登録EU意匠(REUD)」に、「非登録共同体意匠)」は「非登録EU意匠(UEUD)」に改正し、
ウ 「共同体意匠裁判所」は、「EU意匠裁判所」に改正されます。
エ 改正規則には、商標規則と同様に「EU知的財産庁」に変更する旨が記載されています。
(2)定義
ア 意匠の定義 EUDR3(1)改正
「意匠」の定義が拡大され、アニメーション(動きと遷移)が含まれます。
イ 製品の定義 EUDR3(2)改正
「製品」とは、コンピュータプログラム以外の工業製品または手工芸品を意味し、物理的な物体に具体化されているか、非物理的な形で具体化されているかに関係なく、次のものが含まれることが明記されました。
(a) 包装、物品のセット、内部または外部の環境を形成することを目的とした物品の空間配置、複雑な製品に組み立てられることを目的とした部品
(b) グラフィック作品またはシンボル、ロゴ、表面模様、印刷書体、グラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)
(3)排他的権利と制限
ア 3D印刷 EUDR 19(2)(d)改正
意匠権の効力は、登録意匠の3D印刷にも及びます。
意匠を記録した媒体またはソフトウェアの作成、ダウンロード、コピー、共有、または他者に配布することも意匠の侵害行為に該当します。
イ 新たな制限 EUDR 20改正
意匠権の効力は、以下の2つの行為には及ばないことが明記されました。
(a) 製品を意匠権者の製品として識別または参照するために実施する行為
(b) コメント、批評、またはパロディの作成行為
ウ 修理条項 EUDR 20a追加
従来の、暫定的な「修理条項」は、恒久的な規定となり、修理に使用されるスペアパーツに対する意匠保護の例外が明確化されました。
自動車などの「複雑な製品」の構成部品が、その製品の元の外観の復元を目的とした修理目的にのみ使用される場合には、EU意匠での保護を享受できません。なお、この例外は、構成部品の外観が複合製品の外観に依存している場合にのみ適用されます。
エ 意匠表示の導入 EUDR26a追加
意匠権者またはその同意を得た第三者は、意匠登録制度に関する認知度を高めるために、製品に意匠表示「Ⓓ」を付して、製品が意匠登録により保護されていることを示すために使用することができるようになりました。
(4) 出願と審査
ア 受理窓口の一本化 EUDR 第 35 条 (1)改正
すべての出願は、EUIPOに直接出願することとなり、各国官庁を通じての出願はできなくなりました。
イ 出願日要件 EUDR 35(4)、38改正
出願料の支払いは、商標手続と同様に、出願日を確定するための要件となりました。出願人には、出願から1か月以内の出願手数料の支払いが求められます。
ウ 見本の提出
実物見本の提出は廃止されました。
エ 複数意匠出願 EUDR 37改正
複数意匠出願の際の、ロカルノ国際意匠分類が同一分類であることの要件が撤廃され、1つの出願でより多様な意匠を扱えるようになりました。なお、1出願ごとの意匠数は、最大で50意匠に制限されました。
オ 公開の延期 EUDR 50(5)改正
公告料は、出願時に支払う料金に含まれるため、意匠権者は公告料の不納付により公開を回避することはできなくなりました。公開を望まない意匠については、明示的に出願を放棄する必要があります。なお、出願時又はその不備を補充するための期限内に公開延期手数料が支払われない場合、その出願は却下されます。
カ 更新 EUDR 50d追加
基本更新期間は、登録の満了日(保護が終了した月の末日ではありません)までの6か月間となり、猶予更新期間(割増登録料が適用される場合)は、満了日の翌日から開始され、同日の6か月後に終了します。
キ 料金 Annex I
出願手数料は、ANNEX Iとして、改正規則に含まれました。
主な変更点は、登録料と公告料の統合、複数意匠出願には追加意匠ごとに定額料金が導入された点になります。その他、更新料の引き上げと無効宣言及び控訴申請料金の引き下げが含まれます。
なお、登録料の延滞または公開の延期のための手数料、譲渡の記録および登録料、ライセンスまたはその他の権利の登録の取り消し、ファイルの検査、ファイル内の情報の伝達、認証済みおよび認証されていないコピーの発行料金は、今後不要となりました。
現行料金との主な比較については、下表をご参照ください。
改正条文は、以下からご確認頂けます。
- 欧州共同体意匠に関する理事会規則(EC)No 6/2002の改正及び欧州委員会規則(EC)No 2246/2002の廃止に関する2024年10月23日付欧州議会及び理事会規則(EU)2024/2822(EEA関連文書)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ:L_202402822
- 意匠の法的保護に関する2024年10月23日付欧州議会及び理事会指令(EU)2024/2823(再改訂)(EEA関連文書)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ:L_202402822
また、改正に関するEUIPOの公表は、こちらからご確認頂けます。
「改正規則」の要約は、こちらからご確認頂けます。
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
意匠部長・弁理士 木村 恭子