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ビジネスモデル関連発明の特許適格性に関する中国最高裁判決 (2023)最高法知行終91号

1.概要

本判決において、中国最高人民法院(日本の「最高裁」に相当。以下、「最高裁」という。)は、「単なるビジネスモデルは、人類の知的活動の規則に過ぎず、技術的手段を採用しておらず、技術的課題を解決し、技術的効果を生じさせるものではないため、特許法の保護対象には該当しない。ただし、技術的特徴を含むビジネスモデルに関する特許出願は、特許法の保護を受ける可能性がある。具体的な判断においては、当業者の視点から、特許請求項の内容を全体として検討し、自然法則に基づく技術的手段を採用し、技術的課題を解決し、技術的効果をもたらすかどうかを総合的に判断すべきである。この過程において、特許請求項における技術的特徴と商業的特徴を分離し、単に非技術的な内容を含み商業的な効果を実現したことを理由に、特許法の保護対象外と判断すべきではない。」と判示した(判決日2024年6月27日)。

 

2.背景

(2-1)対象特許出願の内容

対象となった特許出願は、北京〇〇情報技術会社および北京〇〇貿易会社(以下、「両京会社」」という。)が所有する、「自動的に変更する数値を共有する方法」と称する中国特許出願201610009262.3号(以下、「本出願」という。)である。

本出願は、共有リンクを通じて商品情報を共有し、そのリンクに含まれるユーザ識別情報と商品識別情報を暗号化・復号化する技術、対応情報をデータベースに保存・照合する技術を活用して注文状況を特定し、その結果に基づき、注文の最終価格を段階的に調整する方法に関するものである。

最高裁において争点に関わる本出願の請求項1は、下記のとおりである。

 

【請求項1】

残金を自動的に決済する方法であって、

第2のユーザが第1のユーザからの共有リンクを介して共有プラットフォームにアクセスすることに応答して、前記共有リンクを復号することによって、第1のユーザ識別情報および商品識別情報を取得し、前記第1のユーザ識別情報および商品識別情報を識別ファイルに記憶することと、

第2のユーザがログイン操作を完了することに応答して、識別ファイルに第1のユーザ識別情報が含まれている場合、前記識別ファイルと第2のユーザ識別情報とを対応付けて、前記識別ファイル、第2のユーザ識別情報、および前記識別ファイルと第2のユーザ識別情報との対応関係を共有プラットフォームの一時ファイルに記憶することと、

第2のユーザからの注文を受信することに応答して、前記一時ファイルにおける前記第2のユーザ識別情報に対応付けられた識別ファイルに前記商品識別情報および前記第1のユーザ識別情報が含まれているか否かを判断し、前記識別ファイルに前記商品識別情報および前記第1のユーザ識別情報が含まれている場合、前記第1のユーザの招待情報の数を修正することと、

第1のユーザが前記残金の数値に基づいて決済を行うように、招待情報の数に基づいて、前記第1のユーザの残金の数値を段階的に更新することと、を含む、残金を自動的に決済する方法。

 

また、本出願の明細書には下記の記載がある。これらの記載は、後述する本件の争点に関わる部分でもある。

 

【0004】

従来の技術では、商品をソーシャルプラットフォームに共有するだけで、注文を追跡する機能がなく、同時に注文価格を修正する機能を実現できないが、共同購入は手付金+残金のモデルを実現し、招待人数が一定量に達した場合、残金は優遇して少なく支払うことができる。

【0005】

本願発明は上述の課題に鑑みて提出されたものであり、本願発明における共有特典は、共有する者と招待される者とを対応付け、ユーザの注文を追跡し、奨励規則を設置し、共有する者に共有のインセンティブを持たせる。また、システムは注文する人数によって自動的に共同購入価格を調整し、一定人数を満たすか、または一定時間に達した場合に価格を変更することも実現できる。暗号化技術はユーザや共有ルートを暗号化して漏洩を防止し、暗号化情報をユーザのローカル端末(例cookie)の現在のドメインに設置し、ユーザの注文を追跡し、その後注文メッセージ(mg)と照合システムの照合情報を生成し、ユーザが共有する注文状態の追跡を完成し、共同購入段階が終了した後、人数によって共同購入に参加するすべての注文価格を更新する。

【0007】

本発明の自動的に変更する数値を共有する方法は、

共有情報を生成し、識別ファイルに前記共有情報を一時保存し、前記共有情報には第1のユーザの情報が含まれていることと、

共有情報に基づいて注文処理を行い、識別ファイルに第1のユーザの情報を含むか否かを判断し、第1のユーザの情報を含む場合、第1のユーザの情報と第2のユーザの情報とを対応付けた対応情報を取得し、前記対応情報を一時保存ファイルに保存することと、

第2のユーザの情報およびデータベース情報コードを取得し、前記対応情報が存在するか否かを問い合わせ、前記対応情報が存在する場合、第1のユーザの招待情報の数を修正することと、

招待情報の数に基づいて、残金の数値を更新することと、を含む。

 

なお、上記請求項1は、本出願を対象とした拒絶査定取消審判において出願人たる両京会社が補正したものである。補正前の請求項1の構成は、本出願の明細書の段落0007に記載されたものと同様である。

 

(2-2)案件の経緯

中国国家知識産権局(日本の「特許庁」に相当。以下、「CNIPA」という。)は、本出願について、中国専利法(便宜上、以下「特許法」という。)の保護対象に該当しないとして2019年11月6日に拒絶査定を発行した。両京会社はこれを不服として2020年2月12日に復審請求(日本の「拒絶査定取消審判」に相当。以下、「取消審判」という。)を行った。その後、北京知識産権法院(日本の「知的財産高等裁判所」に相当。以下、「知財高裁」という。)での訴訟を経て、最終的に最高裁に上訴した。

 

3.争点及びCNIPA・知財高裁・最高裁の判断

(3-1)争点

本出願が特許法第2条第2項に規定される発明特許の保護対象に該当するか否かが争点となった。特に、請求項1には、共有リンクに含まれるユーザ識別情報および商品識別情報を復号化した後に関連付けることや、注文状況をデータベースに保存し、その情報に基づき注文価格を動的に調整するといった技術的特徴が明記されている。この点が客体適格性を判断する上で中心的な論点となった。

 

(3-2)CNIPAおよび知財高裁の判断

CNIPAは、取消審判において、本出願の請求項1に係る発明は、特許法第2条第2項に規定された「技術方案」に該当せず、特許法による保護の客体に該当しない、と判断した。

知財高裁は、下記のように理由付けてCNIPAの上記判断に異議を唱えなかった。

「本願の請求項1は、決済待ちの残金を処理対象とする残金の自動決済方法の保護を請求しており、解決しようとしている課題は、ユーザがリンクを共有するモチベーションをどのように高め、製品の販売をより良く促進するかであり、技術的課題にはならない。

採用した手段は、指定された規則に従って関連データに基づいて残金の数値を修正するものであり、自然法則の制約を受けないため、技術的手段を利用していない。

当該方案が得られる効果は、共同購入モデルによって、人が多ければ多いほど価格が安くなり、段階的な値下げや共有による奨励などの刺激的な伝播を実現し、ソーシャル手段を利用して商品の共有率を高め、それによって低コストで製品の露出、販売量とブランド宣伝力を高めることであり、その効果は製品の販売を促進するだけであり、自然法則に合致する技術的効果ではない。」

 

(3-3)最高裁の判断

両京会社は、上記一審判決を不服として、最高裁に上訴した。

これに対し、最高裁は以下のように判示した。

 

「単純なビジネスモデルは人類の知的活動規則に該当し、技術的手段を採用せず、技術的課題を解決し、かつ技術的効果を生み出していないため、特許法上の保護対象に該当しない。

しかし、コンピュータをキャリアとするインターネット技術の急速な発展に伴い、伝統的なビジネスモデルと現代的なインターネット技術の結合はますます緊密になっている。このような技術的特徴を含むビジネスモデル特許[1]出願は通常、コンピュータのハードウェア装置又はソフトウェアプログラムをキャリアとしてその発明目的を実現し、ビジネスモデルを技術応用に依拠して具体的に実現させる。このような技術的特徴を含むビジネスモデル出願が技術方案を構成するか否か、特許法第2条第2項に規定する特許の保護対象に合致するか否かを判断する際、当業者の視点から、請求項の方案を全体として、自然法則に合致する技術的手段を採用し、技術的課題を解決し、かつ技術的効果を生み出したか否かを総合的に判断すべきである。

特許法第2条第2項に基づき、商業規則と方法的特徴を含む特許出願を審査する際、請求項の方案を全体として、技術的特徴だけでなく商業規則と方法的特徴も含む請求項に記載された全ての特徴を考慮し、両者が緊密に結合し、共同である技術的課題を解決する技術的手段を構成し、かつ相応の技術的効果を得られるか否かを総合的に判断すべきである。この過程において、請求項の技術的特徴と商業的特徴を切り離してはならず、単に非技術的内容を含み、商業上の有益な効果を実現したからといって、それが特許法による保護の客体に該当しないと認定してはならない。

本願は、残金の自動決済方法の保護を求めており、典型的なコンピュータプログラムをキャリアとするビジネスモデル出願である。それが特許法による保護の客体に該当するか否かを判断する際、当業者の視点から、請求項の方案を全体として、『客体三要素』の判断基準を満たしているか否かを判断すべきである。すなわち、技術的手段を採用し、技術的課題を解決し、相応の技術的効果を得られるか否かである。

本願の背景技術部分は、従来の共有モデルにおけるユーザの共有インセンティブが不足している現状を描写し、適切に『共同購入』方式を提案し、手付金と後払いのモデルにより、商品価格が人数の変化に応じて変化することを実現し、ユーザの共有インセンティブを向上させる。

『共同購入』は1種のビジネスモデルであるが、当該ビジネスモデルを実現するには、本願の明細書は、従来の共有技術に不足があると指摘している。商品情報の共有について言えば、それは商品情報をソーシャルプラットフォームに共有するだけで、当該共有情報に対するフォローアップを実現できず、どのユーザが当該共有情報を通じて商品注文を行うかを確定できないのは技術上の欠陥であり、技術的課題に該当する。

当該技術的課題を解決するために、本願では、商品情報を共有する時に、共有情報の第1のユーザ識別及び商品識別を暗号化した後共有リンクに含め、第2のユーザが当該共有リンクをクリックすると、当該共有リンクを復号して第1のユーザ識別及び商品識別を取得し、かつ識別ファイルに記憶する。第2のユーザがログインを完成すると、第2のユーザ識別及び当該識別ファイルを対応付け、対応関係を共有プラットフォームの一時ファイルに記憶する。

これにより、第2のユーザが注文した後、一時ファイルを調べることによって第2のユーザと対応付ける識別ファイルに第1のユーザ識別及び商品識別が存在するかを判断でき、第2のユーザが第1のユーザの共有リンクを通じて注文を行うかを確定できる。

以上のように、本願方案は少なくとも情報暗号化復号、関連対応付け記憶、データマッチング等の技術的手段を採用して、どのユーザが共有情報を通じて商品注文を行うかを確定する技術的課題を解決し、共有リンクの使用状況を正確に判断する技術的効果を実現する。

招待情報に基づいて残金の数値を更新することは、上述の技術的課題が解決された後に採用する商業操作に過ぎず、当該操作又はその他の操作を採用しても本願方案が注文追跡において体現する技術性を否定できない。従って、本願の請求項1が保護を求める方案は特許法第2条第2項に規定する技術方案に該当する。被告決定と一審判決の関連認定について、本院は支持しない。」

 

「新技術、新分野、新業態が次々と出現する背景の下で、適度に緩やかな特許の客体審査基準は、科学技術の進歩と経済社会の発展という時代の要求に合致しており、イノベーション主体の創造能力の激励にも有利である。特にデジタル経済の急速な発展に伴い、特許の客体審査と実体審査のそれぞれの異なる機能を統一的に運用することに注意しなければならない。

ビジネスモデル特許に対して客体審査を行う場合、技術方案に該当しないことが明らかでない限り、一般的に比較的緩やかな審査基準に従うことができ、客体適格性審査のボトムライン機能を発揮する。

実体審査段階では比較的厳格な審査基準に従うことができ、従来技術との対比を通じて特許出願の技術的貢献を正確に評価し、公平かつ合理的に特許権の保護範囲を確定する。

本願の請求項に限定された技術的特徴が公知常識に属するか否か、当該技術的特徴が本願で解決しようとする課題に対して技術的貢献をしたか否かは、原則として新規性と創造性の審査内容に該当する。

実体審査基準を客体審査に組み入れて審査することは、客体審査基準を不適切に高める可能性があり、保護を受けることができる発明創造を特許法による保護から除外することになる。

一審判決は、本願の関連技術的特徴が公知装置等の認定内容に属することについて、本願が特許法第2条第2項に規定する審査内容に合致するか否かを判断するものではなく、関連認定に不当性がある。」

 

4.一考察

本件は、ビジネスモデルを含む特許出願の客体適格性に関する重要な判断を示すものであります。本判決は、特に技術的特徴を含む場合には特許法の保護対象となる可能性があることを明確にし、また、商業的効果を追求する特許出願であっても、技術的側面を適切に評価すべきであるとの基準を示した点が際立っています。この判断は、特許法が新たなビジネスモデルやデジタル経済の進展に対応する可能性を広げるものとして、特許実務において重要な影響を与えるものであります。

 

より具体的に言えば、本判決の意義は、以下の二点が示されていると考えます。

(4-1)「客体三要素」の明確化

  • 技術手段の採用:自然法則に基づく技術的手段を使用しているか。
  • 技術問題の解決:現行技術の技術的課題を解決しているか。
  • 技術効果の達成:自然法則に基づく技術的効果を生み出しているか。

本出願では、共有リンクの追跡と価格調整という課題に対し、暗号化・復号化やデータ追跡技術を適用しており、この三要素を満たしていると判断されました。

商業的効果が明らかな発明であっても、それが技術的課題の解決に基づいている場合には技術方案として認定されるべきとする判断は、特許実務にも影響を与えうる重要な見解です。

また、本出願の取消審判における請求項1の補正内容から、ビジネスモデル関連の特許出願が「客体三要素」を満たすよう補正の方向性が示されていると考えます。

 

(4-2)特許審査基準の柔軟化

本判決により、特許審査における客体審査と実体審査の役割が整理されました。

  • 客体審査(客体適格性の審査):新技術分野の革新を保護するため、特許保護対象の最低基準として比較的緩やかに行う。
  • 実体審査(新規性や進歩性の審査):技術的貢献を厳密に評価し、公平かつ適切な範囲で特許保護を行う。

デジタル経済や新産業の台頭に伴い、技術と商業が融合する特許出願(特にソフトウェアやビジネスモデル関連のもの)が増えています。

最高裁は、こうした特許出願に対して特許審査基準を柔軟化することで、革新的な発明の保護を促進する姿勢を示しました。

 

5.参考文献

  • 「涉商业方法的专利申请是否属于保护客体应注重整体审查判断(日本語訳:ビジネスモデルに関する特許出願が保護対象に該当するかどうかを判断する際には、全体的な審査を重視すべき)」(URL:https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-3699.html、最終アクセス日:2024年12月23日)
  • 本件記載の中国最高裁の判決(中国語のみ)(URL:https://enipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-3693.html?_refluxos=a10、最終アクセス日:2024年12月23日)

[1] 判決では「専利」となっていますが、本件において、ご理解の便宜上、「特許」と訳しました。

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
Beijing IPCHA 中国弁理士 張 小珣
担当:中国弁理士 羅 巍
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