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医薬品集中調達(共同購買(Group Purchasing Organization))における製薬会社の申告行為は販売の申出行為と認められることに関する中国最高裁判決 (2021)最高法知民終1158号
1.概要
本判決において、中国最高人民法院(日本の「最高裁」に相当。以下、「最高裁」という。)は、「先発医薬品の特許権保護期間にジェネリック医薬品(後発医薬品)会社が、医薬品集中調達(共同購買)プラットフォームを通じて関連医薬品集中調達部門に会社および医薬品の資格証明資料等を提出する申告行為は、特許法上の販売の申出行為と認められ、法的に侵害責任を負うべきである」と判示した(判決日2023年2月17日)。
2.背景
(1)対象特許出願について
本件に係る対象特許出願は、発明の名称が「N-置換2-シアノピロリジン化合物」、特許権者がスイス製薬会社、中国特許番号が「99814202.6」、出願日が1999年12月9日、優先権日が1998年12月10日、特許公告日が2004年8月4日である。請求項1が保護する化合物に対応する医薬品の中国語共通名は「ヴィグリプチン」であり、2016年8月4日に、当該スイス製薬会社はサンド株式会社と特許ライセンス契約を締結し、サンド株式会社はこの医薬品の使用、販売等の権利を有する。
(2)本件の経緯
2019年3月6日に、中国豪森株式会社により本件特許のジェネリック医薬品「ヴィグリプチン」(以下、被訴侵害製品)は国家医薬品監督管理局から販売許可を取得した。その後、サンド株式会社は、中国豪森株式会社が被訴侵害製品に関して広州市、福建省、陝西省、青海省など複数の省市で医薬品集中調達(共同購買)への申告を提出したことを発見した。また、関連学術会議でミネラルウォーターのボトルに被訴侵害製品の宣伝用シールを貼り付けたこと、及び従業員がウェイチャットで被訴侵害製品の販売担当者の募集を掲載したことも発見した。サンド株式会社は、中国豪森株式会社が先発医薬品の特許保護期間内に上記行為を実施したことは販売の申出行為に該当すると考え、訴訟を提起し、賠償を請求した。
3.争点及び最高裁の判断
争点:2015年に改正された「特許紛争審理規定」によると、特許法第11条、第69条に規定する販売の申出行為とは、「広告」、「店頭で展示」、「展示会で展示」などの方式で商品を販売する意思表示をすることを指す。本案件において、2019年3月6日に、中国豪森株式会社により本件特許のジェネリック医薬品は国家医薬品監督管理局から販売許可を取得し、即ちその医薬品は既に上場販売できる状態であり、医薬品集中調達(共同購買)プラットフォームを通じて医薬品集中調達部門に会社および医薬品の資格証明資料等を提出する申告行為は当該地域での販売の申出行為に該当するか否かが争点となった。
これに対し、最高裁は、下記のように判断している。
まず、販売の申出行為は特許法が明確に規定する独立した侵害行為の態様であると認定した。販売の申出行為に含まれる行為類型は、開放性、多様性、柔軟性などの特徴を有する。従って、特許法第11条に規定する販売の申出行為の内訳は、主観と客観の両方から把握する必要がある。
具体的には、販売の申出行為は客観的に、「特許紛争審理規定」に例示されている「広告」、「店頭で展示」、「展示会で展示」の3つの場合に限らず、口頭、書面、実物展示、ウェブページ表示、またはその他の知覚可能な方式などを含み、製品を流通させ、製品の商業化を実現するために準備された意思表示であれば、販売の申出行為と認められる可能性がある。一方、主観的には販売の申出行為は、販売者が特定または不特定の人に製品を販売する意思を有することを指す。
次に、申告行為は、自社のジェネリック医薬品をその後の商業流通に投入し、商業化を実現するために準備された意思表示である。その行為は、不特定な人(例えば、ライバル他社、医薬品集中調達(共同購買)に関する部門、潜在的な取引対象としての公立医療機関)に対し、自社のジェネリック医薬品を供給する意思を明確に表明している。申告後に行政審査が必要かどうか、申告する医薬品が最終的に医薬品集中調達(共同購買)プラットフォームに登録されるかどうかは、上記の認定に実際的な影響を与えない。
なお、中国豪森株式会社は、仮に当該申告行為が販売の申出行為と認められるとしても、2008年の特許法(第3回改正)の医薬品および医療機器の審査例外規定(Bolar例外)を適用して責任を免除すべきであると主張している。これに対し、最高裁は以下のように判断した。同審査例外規定に係る行為は、行政審査に必要な情報を提供するために、自分の行政審査を申請するために実施する「製造」、「使用」、「輸入」の行為、および専ら前の主体による行政審査申請のために実施する「製造」、「輸入」行為である。2008年の特許法(第3回改正)には、販売の申出行為はすでに製造、販売などの行為と並んで独立した侵害行為の態様として規定されている。販売の申出行為は同審査例外規定の適用範囲に含まれなく、或いは特許法において販売の申出行為は同審査例外規定の適用範囲から除外されるものである。
従って、ジェネリック医薬品会社が先発医薬品の特許権保護期間内に、医薬品集中調達(共同購買)プラットフォームを通じて関連医薬品集中調達部門に会社および医薬品の資料等を提出する申告行為は、販売の申出行為と認められるべきである。
4.今後の留意点
①最高裁は、本件の審理を通じて、医薬品集中調達(共同購買)に参加するための申告行為は、特許法上の販売の申出行為と認められ、相当する侵害責任を負うべきであることを認定しました。
②2019年12月に中国全国において医薬品集中調達を施行してから、今までに中国全国の30%以上の公立病院は医薬品集中調達により50%以上安く医薬品を入手しました。今後中国市場での競争力を維持するために、外資製薬会社(日本製薬会社だけではない)と中国国内製薬会社による先発医薬品の特許権存続期間が満了する直前における特許侵害訴訟が増えると予想されます。先発医薬品の製薬会社は中国の薬事規制の変化を注視しつつ、例えば、競合他社の監視等を行い、特許権利を積極的に行使することが推奨されます。
本件記載の中国最高裁の判決(中国語のみ)は以下のサイトから入手可能です。
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:Beijing IPCHA 中国弁理士 塗 琪順