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逆均等論に関する連邦巡回控訴裁判所判決 Steuben Foods, Inc. v. Shibuya Hoppmann Corp. (Federal Circuit, January 24, 2025)
逆均等論によれば、被疑侵害者は、被疑製品が「クレームから原理において大きく変更され、実質的に異なる方法で同一又は類似の機能を果たしている」ことを証明することにより、侵害責任を回避できる可能性があります。本件判決において、連邦巡回控訴裁判所 (以下CAFC) は、逆均等論を抗弁として主張するための要件が満たされていないと判断しました。
<背景>
Steuben Foods社は、米国特許第6,209,591号(以下591特許)を保有している。591特許は、高処理速度でボトルを無菌充填するシステムについて記載する。以下に示す591特許の図面には、先行技術が有する課題が示されている。図23では、バルブ194Aがノズル196Aに対して閉位置にあり、食料品262Aがボトル(不図示)に流れることをブロックする。図24では、バルブ194Aが開位置に移動して、食料品262Aがボトルに流れることを許容する際、非滅菌領域(ピンク色で表示)で汚染物質にさらされたバルブ-ステム部分264A(赤色で表示)が滅菌領域(青色で表示)に侵入することで、滅菌領域が汚染されてしまう。

591特許は、第二滅菌領域270A(紫色で表示)を設け、滅菌媒体424を用いてバルブ-ステム部分264Aをあらかじめ滅菌することによって、上記の問題を解決することができるとしている。

591特許のクレーム26は以下のとおりである。
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- Apparatus for aseptically filling a series of bottles comprising:
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a valve for controlling a flow of low-acid food product into a bottle at a rate of more than 350 bottles per minute in a single production line;
a first sterile region surrounding a region where the product exits the valve;
a second sterile region positioned proximate said first sterile region;
a valve activation mechanism for controlling the opening or closing of the valve by extending a portion of the valve from the second sterile region into the first sterile region, such that the valve does not contact the bottle, and by retracting the portion of the valve from the first sterile region back into the second sterile region.
2010年、Steuben社はShibuya Hoppmann社を591特許の侵害で訴えた。Shibuyaのシステムは以下に示されている。Steuben社は、青色の滅菌領域がクレーム26の第一滅菌領域に対応し、ベージュ色の食料品通路(無菌)がクレーム26の第二滅菌領域に対応すると主張した。Shibuyaのシステムでは、第二滅菌領域とされている領域に滅菌剤は添加されず、当該領域はバルブステムを滅菌するものではない[1]。むしろ、Shibuyaのシステムでは、バルブステムの非滅菌部分が食料品通路を汚染することを防ぐために、伸張可能なバリア(ベローズ(蛇腹)と呼ばれる)を用いている。
陪審員は、実体審理の後、Shibuyaの591特許侵害を認定する評決を下した。陪審員の評決をレビューした地裁判事は、Shibuyaのシステムが「第一滅菌領域に近接して配置された第二滅菌領域」を含んでおり、クレーム26を文言侵害していることについては同意した。しかしながら、地裁判事は、逆均等論による抗弁を支持する証拠があり、合理的な陪審員がShibuyaに侵害責任があると認定することはできないとする判断を示した。特に、地裁では、被疑システムの動作原理が591特許のものとは実質的に異なることを示す証拠が重視された。具体的に、地裁判事は、被疑システムでは汚染されたバルブステムが食料品通路に移動するのを防ぐためにフレキシブルバリアが用いられていることに言及している。地裁判事は、対照的に、「本件特許発明における第二滅菌領域の目的は、非滅菌領域にさらされるバルブ-ステム部分264Aを滅菌することである」と結論付けた。
<CAFC判決>
控訴審において、CAFCは地裁判事の判断を覆し、陪審員の侵害評決を復活させた。特に、CAFCはSteuben社の専門家証言に言及し、591特許の動作原理は「毎分350本以上のボトルを無菌的に充填することであり…バルブの移動が規制される二つの滅菌領域を設けることによって、バルブが開閉する際に当該二つの領域内にのみ留まって非滅菌領域には入らず、汚染物質や病原体を食料品に持ち込むリスクを回避することである」と述べている[2]。CAFCは、また、被疑製品の第二滅菌領域の動作原理は「バルブが開くときにバルブの先端が上昇するための滅菌領域を提供し、非滅菌領域に侵入して食品に汚染物質を持ち込まないようにすること」であるとするSteuben社の専門家証言にも言及している。当該証言及びその他の証拠に基づき、CAFCは、被疑製品の動作原理と591特許の原理とが逆均等論により非侵害を認定する程に大きく変更されていないと合理的な陪審員は結論付けることができると判断した。
<考慮すべきポイント>
Steuben社は、逆均等論が一世紀以上前に司法によって形成されたものであり、1952年特許法によって排除されたという主張も行っています。CAFCは、Steuben社の主張には「説得力がある」と指摘し、CAFCでは、逆均等論に基づいて非侵害の決定を確認した件はないことにも言及しています。本件において、CAFCは、陪審員の評決が上記の理由で支持されたため、1952年特許法の下で逆均等論が存続しているかどうかを決定する必要はないとしていますが、今後、逆均等論の利用は疑わしいと云えるでしょう。
このように、控訴審において逆均等論による抗弁を主張することは困難であり、逆均等論による抗弁の回避を意図して明細書を作成すること(例えば発明の動作原理を明確に規定すること等)に特段の意義はないと考えられます。
<参照リンク>
本判例は、以下のリンクでご覧いただくことができます。
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-1790.OPINION.1-24-2025_2456160.pdf
[1] 地裁において、Shibuyaは、「第二滅菌領域」とされている領域について、食料品製品262Aが流れる充填パイプ(上記591特許の図23~26のベージュ色のエリア)に相当するものであると主張している。
[2] 地裁は、この証言が591特許の明細書と矛盾しており、法的に誤りであると結論付けていた。
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 加藤奈津子