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外国制度の解説

マドリッド協定議定書に基づく国際商標登録出願の概要  

1.マドリッド協定議定書に基づく国際商標登録出願とは、

[1] 一般に、「国際商標出願」又は「マドプロ出願」と呼ばれ(ここでは「マドプロ出願」といいます)、1通の願書で複数の国への出願手続きを行うことができる制度です。日本では、2000年3月より出願可能となりました。

[2] 日本特許庁に係属中の商標登録出願、もしくは、既に日本で登録されている登録商標を基礎として出願を行います。指定商品・役務の範囲に関しては、基礎となる出願(基礎出願)・登録(基礎登録)と同じ、若しくは、それよりも狭い必要があり、出願に係る商標は、基礎出願・登録のものと同一でなければなりません。指定国毎に指定商品・役務を変えることができ、複数の基礎出願・登録を指定することも可能です。

[3] 従来からの各国特許庁毎に出願する方法では、一般に各国の現地代理人が現地特許庁に対して手続きを行いますが、マドプロ出願では、現地代理人を通さず、願書を日本特許庁に提出することで手続きを行います。

[4] 審査は、日本特許庁→World Intellectual Property Organization(通称:WIPO、 所在地:スイスのジュネーブ)の国際事務局→指定国官庁の順で行われます(指定国によっては、審査を行わないこともあります)。

[5] 存続期間は国際登録日より10年で、何度でも更新することができます。

[6] マドプロ出願の長所としては、i)1通の願書(英語)で複数の国へ出願手続きができる点、ii)審査期間が限定されている点、iii)現地代理人を通さないため、各国出願に比べてコストを抑えることができる点などが挙げられます。また、事後指定(指定国、指定商品・役務の追加)が可能であり、後に取引国が増えた場合でも対応可能です。さらに、登録後も更新、各種変更手続きを一括で行うことができる点も長所と言えます。

[7] 一方、短所としては、基礎出願が登録にならない場合や基礎登録が取消された場合、マドプロ出願・登録も取消されてしまうという点が挙げられます(セントラルアタック)。この場合、各国出願への切り替えを行うことができますが、新たに出願費用がかかります。

以下、本制度について、より詳しく説明します。

2.指定国

   マドプロの締約国は2008年11月現在77カ国です(予定国含む)。2004年4月より国際登録の言語としてスペイン語が追加されたため、今後中南米等のスペイン語圏の国の加盟が予想されます。

イギリス(マン島適用)、スウェーデン、スペイン、中国(香港・マカオ未適用)、キューバ、デンマーク(グリーンランド、フェロー諸島未適用)、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、チェコ、 モナコ、北朝鮮**、ポーランド、ポルトガル、アイスランド、スイス、ロシア、スロバキア、ハンガリー、フランス、リトアニア、モルドバ、セルビア(セルビア・モンテネグロを継承)、スロベニア、 リヒテンシュタイン、オランダ、オランダ領アンチル、ベルギー、ルクセンブルク、ケニア、ルーマニア、グルジア、モザンビーク、エストニア、スワジランド、トルコ、レソト、 オーストリア、トルクメニスタン、モロッコ、シエラレオネ、ラトビア、日本、アンティグア・バーブーダ、イタリア、ブータン、ギリシャ、アルメニア、シンガポール、ウクライナ、 モンゴル、オーストラリア、ブルガリア、アイルランド、ザンビア、ベラルーシ、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、韓国、アルバニア、米国、キプロス、イラン、クロアチア、キルギス、 ナミビア、シリア、欧州共同体***、バーレーン、ベトナム、ボツワナ、ウズベキスタン、モンテネグロ、アゼルバイジャン、サンマリノ、オマーン、マダガスカル、ガーナ、サントメ・プリンシペ

* 台湾、香港、タイ、マレーシア、インドネシア、インド、フィリピンはマドプロに加盟していません。
* 台湾、香港、タイ、マレーシア、インドネシア、インド、フィリピンはマドプロに加盟していません。
* * 日本から北朝鮮を指定することはできません。
* ** 欧州共同体を指定国としてマドプロ出願を行う前に、EU加盟国において「マドプロ出願に係る商標と同一であり、且つ、同一(もしくは同等以上)の指定商品・役務について登録された商標」を同一の名義人が既に持っている場合、セニオリティをそのマドプロ出願に際して主張をすることができます。このセニオリティにより、既に登録されている登録内容を国際登録において反映させることができます。よって、一旦国際登録されれば、既に持っていた各国での登録を後に放棄しても、国際登録をもって登録内容を維持し続けることができます。セニオリティ主張は登録後に行うことも可能です。

3.優先権主張

 パリルートと同様に、マドプロ出願でも基礎となる日本の出願から6ヶ月以内であれば、優先権主張を行うことができます。優先権主張をすることにより、日本での出願日が国際登録出願日となります。日本特許庁を通して手続きをしているため、優先権証明書の提出は不要です。

4.使用言語

   日本特許庁が定めた言語は英語ですので、出願は「英語」で行うことになります。但し、WIPOから直接送付される書類に関してはフランス語やスペイン語を選択できます。

5.審査

 [1] 日本特許庁での審査
願書の記載が正しいか、印紙が適切か、又は、日本での出願・登録の範囲内であるか等の基本的な審査(方式審査)が行われます。

[2] WIPOでの審査:
i) 指定商品・役務の区分・表記が国際基準に合致しているか、又は、手数料が適切に納付されているか等の審査(方式審査)が行われます。

(具体例)
* 分類が不適切な場合は、「分類欠陥通報」が、表記が不適切な場合は「表示欠陥通知」が出願人(日本での代理人を通している場合は代理人)へ送られます(同一内容の通報が2通届きますが、1通はWIPOから直接出願人に、もう1通はWIPOから日本特許庁を経由して出願人に届きます)。この欠陥通報に対する応答は、出願人(日本での代理人)→日本特許庁→WIPOのルートで行われます。応答書類は英語で作成します。

ii)WIPOでの審査の結果、方式上問題がないと判断されると、国際商標登録番号が付与され、国際商標登録証が発行されます。また、登録内容は、国際登録簿に記録されます。この後、WIPOより指定国官庁(願書で指定した出願国の特許庁等)に国際登録された旨が通報され(領域指定の通報)、各指定国官庁にて審査が行われます。

[3] 指定国官庁での審査:
i)指定国官庁では、各国の商標法に基づく実体審査が行われます。審査期間はWIPOが指定国官庁に領域指定の通報を行った日より1年(最長で18ヶ月)です。その期間内に拒絶の通報等がなければ、その国での保護が確定したことになります。その際、指定国官庁によっては、登録の最終決定に関する通知や登録証を発行する場合もあります。また、上記審査期間経過後であっても、異議申立に基づく拒絶を受ける場合もあります。

(拒絶の通報について)
* 拒絶の通報は、各国出願した場合と同様に、各指定国官庁から発行されます。各国出願と異なる点は、出願時に現地代理人を通していない為、拒絶の通報が各国官庁からWIPO経由で出願人(日本での代理人)に届くという点と、多くの場合、応答する際に現地代理人を新たに指定する必要があるという点です。

ii)審査を行わない指定国(無審査主義国)もあり、その指定国については、WIPOでの審査が完了した時点で保護が確定します。

6.指定国や指定商品・役務の追加

 [1] 『事後指定』といい、出願時に指定していなかった国を後から新たに追加できる制度です。新しい加盟国の指定や当初予定していなかった国で商標権が必要になった場合などに便利です。

[2] 指定商品・役務の追加は、国際登録簿に記録されている範囲内のものに限られます。基礎出願・登録に含まれている指定商品・役務であっても、マドプロ出願時にいずれの指定国においても指定されていない商品・役務については追加できません。

7.指定国や指定商品・役務の削除

指定国ごと、あるいは、指定商品・役務ごとに削除することが可能です。

8.セントラルアタック

[1] 国際登録の日から5年以内に、日本での基礎出願もしくは基礎登録が拒絶・放棄・無効もしくは取消等により消滅した場合、その消滅した範囲内で国際登録の指定商品・役務の一部又は全部についても効力を失うという制度です。

[2] 国際登録が取り消された日から3ヶ月以内であれば、取消された国際登録の指定商品・役務について、国際登録が有していた先願の地位(優先権を含む)を保持したまま各国出願へ切り替えることが可能です。

最後に、マドプロ出願と各国への直接出願の流れを簡単にまとめたフローチャートを掲載しましたのでご参照下さい。

《マドプロ出願から登録までのフローチャート》

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<参考文献>
・ 『マドリッド協定議定書を利用した海外商標出願セミナーテキスト』(平成16年度版 特許庁)
WIPOホームページ
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