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米国CAFC判決 Knorr-Bremse v. Dana Corp.事件
2004年9月13日に、弁護士の鑑定と故意侵害の推定との関係を論点とし、有識者の見解を求めていた、Knorr-Bremse v. Dana Corp.の特許侵害訴訟事件につきCAFC大法廷(en banc)判決が出ました。
本件では、以下の4つの論点に対して、CAFCが判断を下しました。
1.侵害訴訟において、被告が守秘義務特権(attorney-client privilege)及び/又は弁護士作成業務特権(work-product privilege)を主張して、鑑定結果を開示しなかった場合、陪審員が故意侵害につき、被告に不利な推定をすることは適切であるか?
CAFCの判断_No
2.被告が弁護士の鑑定を取得しなかった場合、故意侵害について不利な推定をすることは適切であるか?
CAFCの判断_No
3.CAFCが故意侵害の今までの判例法を変えるべきと結論づけて、本件における不利な推定を却下する場合、本件の結論はどうなるのか?
CAFCの判断_本件を地裁に差し戻す。
4.弁護士の鑑定を取得しなかったとしても、侵害に対する実質的な防御がある場合には、故意侵害の責任を否定するのに十分であるか?
CAFCの判断_No
米国特許侵害訴訟において「故意」侵害と判断された侵害者は、最大3倍の損害賠償と弁護士費用の支払が求められます。これまで、CAFCは、侵害被疑者が、非侵害又は特許無効に関する弁護士の証拠力ある鑑定を獲得し、善意に信頼できるものであったことについての証拠を陪審において示すことができなかった場合には、陪審員は、侵害被疑者は鑑定を入手していないか或いは入手していても侵害被疑者にとって望ましい鑑定(非侵害又は特許無効との鑑定)ではないとの不利な推定をできるとしていました(「不利な推定=adverse inference」)。
この不利な推定のルールは、侵害被疑者にとってジレンマをもたらしていました。即ち、侵害訴訟において鑑定に依拠すれば、不利な推定を避けることはできるものの、弁護士・依頼者間の秘匿特権を放棄することになってしまい、一方、鑑定に依拠しなければ、弁護士・依頼者間の秘匿特権を維持できるものの、裁判官や陪審員が不利な推定をし、その結果、実質的な損害賠償の増加の可能性を伴う「故意」の認定をもたらすというリスクの増加を招くことになるからです。
今回のKnorr-Bremse判決は、不利な推定に関するこれまでの20年間の判例法を覆し、故意侵害に関する上記のルールを明らかにしたものであり、今後の鑑定実務との関係で注目すべき判決と言えます。
- 本欄の担当
- 弁理士 大貫進介
弁理士 吉田千秋
弁理士 伊東忠重