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ミーンズプラスファンクションクレームに関する米CAFC判決について
先ごろ米国巡回控訴裁判所(CAFC)がミーンズプラスファンクションクレーム(米国特許法112条第6段)の適用に関する2つの判決を出しました。これらについて以下に紹介致します。
1)ミーンズプラスファンクションクレーム(米国特許法112条第6段)の適用を受けた判例 (2014年10月14日判決)
ROBERT BOSCH, LLC v. SNAP-ON INCORPORATED (Fed. Cir.) (Oct. 14, 2014)
ROBERT BOSCH社の有する米国特許番号6,782,313はコンピュータ化された制御部を再度プログラムする必要があるか否かを判定する診断装置に係わり、以下の文言でクレーム1が記載されていた:
1. An external diagnostic tester for motor vehicles, the motor vehicles having programmable control units with self-diagnostic means, wherein the control units can be connected to the external diagnostic tester via a diagnostic/test plug in the motor vehicle, the external diagnostic tester comprising,
a program recognition and program loading device, wherein a program version contained in a connected control unit is queried and recognized by means of the program recognition device, and, if the program available in the motor vehicle and recognized via the diagnostic/test plug is not stored there in a latest and most current version, a respective most current version is loaded by the program loading device into a program storage device of the pertinent control unit of the motor vehicle, wherein the external diagnostic tester automatically establishes communication with a central date base in order to check the program version and, if necessary, to obtain the current program version that applies for the control unit connected to the diagnostic tester and to store it there.
SNAP-ON 社は、上記クレーム1の“program recognition device” 及び “program loading device”は、ミーンズプラスファンクションクレーム(米国特許法112条第6段)として認定され、更にクレーム1のミーンズプラスファンクションクレームは不明確である、との主張を行った。
本判決では、上記ミーンズプラスファンクションクレームの認定とクレームの不明確性に関して以下の2つの分析を行った:
Ⅰ.クレームがミーンズプラスファンクションの形式によって記載されているか否かを判定する。クレーム中に記載された“means”は、クレーム解釈においてミーンズプラスファンクションクレームを適用するとの反証可能な推定を引き起こす。一方で、“means”をクレームで記載しなかった場合、ミーンズプラスファンクションクレームを適用しないと推定される。しかし、“means” をクレームで記載しなかった場合であっても、十分に明確な構成を記載していない場合、或いは機能を実行する為の十分な構成を記載することなく機能を記載した場合、上記「ミーンズプラスファンクションクレームを適用しない」との推定は適用されない。
Ⅱ.ミーンズプラスファンクションクレームを適用する場合、クレームされた機能に対応し、明細書に記載された構造、素材或いは行為を特定することにより、クレーム文言は限定され、解釈される。上記構造、素材或いは行為が明細書中で特定できない場合は、クレーム記載は不明確である。
本判決では、上記クレーム1の“program recognition device” 及び “program loading device”において“means”と記載しなかった為、上記「ミーンズプラスファンクションクレームを適用しない」との推定が働く、との見解を示した。
しかし、本判決では、上記クレーム文言“program recognition device” 及び“program loading device”は特定の構成に対応せず、機能を実行する一般的なカテゴリを言及しただけである為、ミーンズプラスファンクションクレームの解釈の適用を受ける、との見解を示した。上記見解を示す根拠として、上記クレーム文言“program recognition device” 及び “program loading device”に対応する構成が一つも明細書に開示されていないこと、また明細書はそれらの機能を記載しているに過ぎないことを挙げた。更に、上記の機能は如何なるハードウェア或いはソフトウェア或いはその両方によっても実行可能である、との見解を示した。
ROBERT BOSCH社は、ミーンズプラスファンクションクレームの解釈の適用を避けるべく、 “modernizing device”の記載がミーンズプラスファンクションクレームの解釈の適用を受けなかったInventio判決(469 F.3d at 1357-59)を引用したが、Inventio判決の“modernizing device”は、明細書及び図面中に“elevator control” 及び “ computing unit”と接続されていることが示されているだけでなく、プロセッサ、信号発生部、変換部、記憶部、信号受信部等の“modernizing device”の内部構成要素に関しても示されていたとして、上記BOSCH社の主張を退けた。
2)ミーンズプラスファンクションクレーム(米国特許法112条第6段)の適用を受けなかった判例 (2014年11月5日判決)
WILLIAMSON v. CITRIX ONLINE, LLC (Fed. Cir.) (Nov. 5, 2014)
WILLIAMSON社の有する米国特許番号6,155,840は、汎用コンピュータとソフトウェアをネットワーク接続することにより、バーチャル教室環境を与える為の分散型学習方法及びシステムに係わり、以下の文言でクレーム8が記載されていた:
8. A system for conducting distributed learning among a plurality of computer systems coupled to a network, the system comprising:
a presenter computer system of the plurality of computer systems coupled to the network and comprising:
a content selection control for defining at least one remote streaming data source and for selecting one of the remote streaming data sources for viewing; and
a presenter streaming data viewer for displaying data produced by the selected remote streaming data source;
an audience member computer system of the plurality of computer systems and coupled to the presenter computer system via the network, the audience member computer system comprising:
an audience member streaming data viewer for displaying the data produced by the selected remote streaming data source; and
a distributed learning server remote from the presenter and audience member computer systems of the plurality of computer systems and coupled to the presenter computer system and the audience member computer system via the network and comprising:
a streaming data module for providing the streaming data from the remote streaming data source selected with the content selection control to the presenter and audience member computer systems; and
a distributed learning control module for receiving communications transmitted between the presenter and the audience member computer systems and for relaying the communications to an intended receiving computer system and for coordinating the operation of the streaming data module.
CAFCは上記“a distributed learning control module”の文言はクレーム解釈においてミーンズプラスファンクションクレームとしての適用を受けないとの見解を示した。
本判決では、「ミーンズプラスファンクションクレームを適用しない」との強い推定が働く理由として、“means”の文言が記載されていないことを挙げた。また、上記の強い推定を否定する為には、クレームの機能に対応する構成が著しく欠けている為、ミーンズプラスファンクションクレームの記載を意図してクレームを作成したとして当業者が特許を読んだ際に結論付けること、が証明される必要があることを挙げた。
また、本判決では、幾つかの辞書を参照し、“module”が当業者にとってハードウェア(他のコンポーネントと共に使用される機能ハードウェアのパッケージ)とソフトウェア(関連する複数の機能の一部の機能を実行するプログラムの一部)の両方の意味を持つことにも言及した。
更に、形容詞的記載である”distributed learning control”の文言も“a distributed learning control module”を解釈する上で無視できず、クレーム記載を全体として更に限定するように作用する、との見解を示した。クレーム8の上記“a distributed learning control module”は明確な構造体である“distributed learning server”の一部として記載されているだけでなく、クレームされた内部接続及び内部通信(“a distributed learning control module”は演者と聴講者のコンピュータ間の信号を受信し、受信した信号を意図した受信演算装置に転送し、ストリーミングデータモジュールの操作を連携させる)により、当業者は上記“a distributed learning control module”の文言にはその構成も含まれると理解する、との見解を示した。
CAFCは、明細書中における“a distributed learning control module”の記載は非常に一般的な記載にとどまり、機能的な表現も使用されているが、当業者の専門用語として使用される場合や当業者が構成を意図する為に使用する場合は、クレーム文言が幅広い種類の構成を意味する場合やクレーム文言がその機能によって構成を特定する場合であったとしても、クレーム文言が構成を欠いていると認定することはできない、との見解を示した。
以上
- 本欄の担当
- 副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
同 米国パテントエージェント 有馬 佑輔