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コンピュータ化された取引方法の特許適格性に関するCAFC大法廷判決 (CLS Bank v. Alice Corporation) 2013年5月10日

 2013年5月10日付けで米国巡回控訴裁判所(CAFC)の大法廷にて、コンピュータ化された取引プラットフォームを対象とするシステム、方法及びコンピュータープログラム製品に対するクレームの特許適格性に関する判決が出されました。
 今回のCAFC大法廷判決は、正式な大法廷としての判決(per curiam decision)としては、Alice社の所有する特許の方法クレーム及び記録媒体クレームは米国特許法101条の下に特許適格性を有さない、との判示をしました。
 しかし、上記のper curiam decisionを導く特許適格性の判断の基準に関して、10名の判事の内、6名以上の判事が1つの判決に合意しなかった為、裁判所全体としての特許適格性判断の基準を示す判決には至りませんでした。
 尚、10名の判事のうち、7名の判事が方法クレーム、記録媒体クレームに対して特許適格性を認めない見解で合意した一方、システムクレームに関する特許適格性の見解は完全に二分されました。

背景

 2007年5月24日に、米国地裁において、CLS Bank International (以下、“CLS BANK”)はAlice Corporation(以下、“Alice“)に対する訴訟を提起しました。CLS BANKは、Aliceの米国特許US5,970,479(以下、”479特許”), US6,912,510, US7,149,720及びUS7,725,375(以下、”375特許”)について、非侵害、無効、及び実施不能を訴える確認判決を求めていました。それに対し、AliceはCLS BANKがAliceの上記特許権を侵害していると反訴していました。
 地裁は、Aliceの方法クレームが「リスクを低減する為に、債務交換を同時に行う仲介人を利用する抽象概念」であるとの見解を示し、特許適格性が無いとの判示をしました。また、地裁は、システムクレームと記録媒体クレームとに関しても、同様に特許適格性が認められない、として特許無効の判決を下しました。
 上記地裁判決を不服として、CAFCに対してAliceが控訴した結果、CAFCは地裁判決を覆し、Aliceの特許に対して、特許適格性を認めました。これを受けて、CLS BANKはCAFCに対して大法廷での再審理を申し立てていました。CAFC大法廷での再審理では、主に以下の2点に関して、審理が行なわれました。

A)What test should the court adopt to determine whether a computer-implemented invention is a patent ineligible “abstract idea”; and when, if ever, does the presence of a computer in a claim lend patent eligibility to an otherwise patent-ineligible idea?
(コンピュータにより実行される発明が特許適格性の無い抽象概念であるか否かを定めるために、また、本来ならば特許適格性のない概念に対してコンピュータの存在が適格性を与える場合があるとしたら、どのような場合であるのかを定めるために、裁判所はどのような基準を設けるべきか?)

B)In assessing patent eligibility under 35 U.S.C. § 101 of a computer-implemented invention, should it matter whether the invention is claimed as a method, system, or storage medium; and should such claims at times be considered equivalent for § 101 purposes?
(コンピュータにより実行される発明に対する特許法101条の下の特許適格性の判断において、クレームが方法、システム、或いは記録媒体の何れのカテゴリであるのかが判断を左右するか否か、また、上記のカテゴリは特許適格性の判断においていずれも同等と見なすべきか否か?)

今回のCAFC大法廷の判決

 今回のCAFC大法廷判決では、5つの同意及び反対の見解が示されましたが、いずれの判決文も10人の判事の内6人以上の判事からの署名を得ることができなかった為、上記の2点に関してのCAFC全体の見解を示すには至りませんでした。
 これらの5つの見解の内、最も多くの判事から署名を受けたLourie判事の特許適格性判断に関する見解と、2番目に多くの判事から署名を受けたRader判事による見解の要旨を以下に纏めました。

○Lourie判事の見解(Dyk判事、Prost 判事、Reyna判事、Wallach判事も署名)
Lourie判事は、上記特許適格性の判断に関する原則を以下のように示した:

・ 特許は、発明の為に必須となる手段をも排他的に独占すること(“preempt the fundamental tools of discovery”)を許すべきではない。これらの手段は全ての者にとって自由に使用されるべきであり、特定の者に対して排他的に付与されるべきではない。そして、特許クレームは自然法則、自然現象、或いは抽象概念と同一の外延を有するべきではなく、これらよりも十分に狭い範囲となるように、基本原則を十分に発展させる、一つ以上の実質的な限定を有するべきである。
・ 出願人による操作を可能にするような、特許適格性に関する過度に形式的な手法を取るべきではない。
・ 特許適格性の判断には、クレーム毎に、柔軟性のある手法を取り、画一的なルールの適用を避けるべきである。

 上記原則に基づき、Lourie判事は、コンピュータによって実行される発明の特許適格性の判断の為のステップを以下のように示した:
1. 特許法101条に定められた、方法、装置、生産物、或いは組成物のカテゴリの内、いずれかのカテゴリに含まれるか;
2. 上記1を満たす場合、クレームは抽象概念を含んでいるか、または抽象概念を独占する危険性が有るか;
3. 下記ステップ4における分析に一貫した基礎を持たせる為に、クレーム中に記載された基本的概念を特定し、定義する。101条の特許適格性の判断の際には事前にクレーム解釈を行なうことは非常に有用である;
4. 上記抽象概念を特定後、実質的な限定を含み、クレーム範囲を制限するので、クレームは抽象概念全体をカバーしないか否かを判断する。尚、Lourie判事は、上記実施的な限定とは、特許法102条、103条の判断に使用される、発明性(“inventiveness”)を必ずしも有する必要がない、と言及している。101条の下の発明性は、発明対象に対する真の人類による寄与を意味するのであり、上記真の人類による寄与とは、抽象概念に対する、単なる自明的な追加以上の行為でなければならない。更に具体的には、単に、(発明の本質と)無関係で、習慣的に予め定められ、良く知られた、或いは従来の人類による行為を示すだけの限定や、実際上は必須の原則(抽象概念等)に対してクレームの範囲を狭くしていない限定により、特許適格性を有することは出来ない。

 上記のLourie判事の特許適格性の基準を適用し、Aliceの所有する479特許のクレーム33(以下ご参照)の特許適格性に関して以下のような見解を示しています:

A method of exchanging obligations as between parties, each party holding a credit record and a debit record with an exchange institution, the credit records and debit records for exchange of predetermined obligations, the method comprising the steps of:

(a) creating a shadow credit record and a shadow debit record for each stakeholder party to be held independently by a supervisory institution from the exchange institutions;
(b) obtaining from each exchange institution a start-of-day balance for each shadow credit record and shadow debit record;
(c) for every transaction resulting in an exchange obligation, the supervisory institution adjusting each respective party’s shadow credit record or shadow debit record, allowing only these transactions that do not result in the value of the shadow debit record being less than the value of the shadow credit record at any time, each said adjustment taking place in chronological order; and
(d) at the end-of-day, the supervisory institution instructing ones of the exchange institutions to exchange credits or debits to the credit record and debit record of the respective parties in accordance with the adjustments of the said permitted transactions, the credits and debits being irrevocable, time invariant obligations placed on the exchange institutions.

 上記1-2に示されたステップとして、上記クレームに示される方法は、101条の下の方法としてのカテゴリであるが、第三者の仲介者を通して取引を行なう際のリスクを低減する概念は、具体性が無いとの理由で、抽象概念であるとの見解を示した。更に、上記3に示された抽象概念に関する判断として、Lourie判事はクレームされた方法は、代金の支払い等の取引の当事者が、該取引の前に、双方の義務を達成可能である事を確認することができる第三者を仲介とすることで、該取引のリスクを低減する、との抽象概念であると述べている。
 そして、上記4に示されたステップでは、”creating shadow records”, “using a computer to adjust and maintain those shadow records”, “reconciling shadow records and corresponding exchange institution accounts through end of day transaction”に記載されるステップは、実質的にはクレーム範囲を限定していないとの見解を示した。
 特に、Lourie判事は、上記クレームには、コンピュータの働きに関して何も記載が無く、抽象概念を含む方法の中に、汎用コンピュータによる一つ以上のステップの自動的な実行は、人類による寄与が殆ど無いことを証明している、との見解を示した。
 また、更に、単に高速化された計算ではない処理を実行するコンピュータを必要としない限り、コンピュータの使用そのものが特許適格性を与えることは無いとし、コンピュータの使用を必須とすることのみでは、クレームに含まれる抽象概念を実質的に限定する「発明的概念」として認定することは出来ない、との見解を示した。
 更に、“shadow record”は、取引の当事者それぞれの義務と行為を管理する、エスクロー方式における仲介者に必要とされる基礎機能であるので、管理者が“shadow record”を作成し、未達成の義務を管理することは重要とは言えず、意図する解決方法以前の行為であるとの見解を示した。
 最後に、Lourie判事は、当事者夫々の、“shadow record”に対する一日の累計補正値を実際のアカウントに一致させる為の、一日の終わりの指示を交換業者に送るステップに関しても、同様に重要な限定では無いとの見解を示した。この理由として、上記のような指示が同時に時差無く発行されるか、二時間毎に発行されるか、一日の終わりに発行されるかに関係なく、選択されたタイミングにて正確に支払いを行なうことが、クレームに含まれる抽象概念の最終的な応用に関して、どうのように重大な相違を生むかに関する証拠が無い、との見解を示した。
 Lourie判事は、上記と同様の分析を他のクレームにも行い、それらのクレームは特許適格性を有さない、との見解を示した。また、システムクレームに関しては、方法ステップと関連するコンピュータを含むが、何れのハードウェアも、クレームされる方法を特定の技術環境に応用する為の一般的な関連付け(つまりコンピュータによって実行すること)を超えるほどの意義のある限定ではないとし、特許適格性の判断における、意義のある「発明的概念」を与えない、との見解を示した。

○Rader主席判事の見解(Linn判事、Moore判事、O’Mally判事も署名)
 Rader主席判事の判決文には、他の3名の判事が署名を行なった。その中で、システムクレームは特許適格性が無い、とする地裁判決を覆す見解を述べている。Rader主席判事は、特許法の規定と立法経過記録を参照し、特許法101条を広く包括的にする意図を前提にしながら、クレームされた抽象概念の禁止は限定的に適用されるべきとの見解を示した。
 Rader主席判事は、判例を鑑みると、特許適格性の判断に使用されるテストは、クレームが意義のある限定を有し、具体的な現実世界、或いは抽象概念の実際の応用にまでクレームを限定しているか否か、であるとの意見を示した。
 コンピュータにより実行されるとの限定に関しては、クレーム発明に関して、意義のある機能を実行するコンピュータとしてクレームが記載され、クレームの根底にある抽象概念のあらゆる応用を実質的に独占しない場合は、クレームは特許適格性を有する、との見解を示した。
 更に、Rader主席判事は、Lourie判事に反対する意見として、クレームの実質的な限定はクレーム発明に対する人類の真の寄与であるべきとする、創造性(”ingenuity”)の要件は不要であるとの見解を示した。
 尚、Rader主席判事は375特許のクレーム26を基にして、コンピュータは101条の下の機械に相当するので、特許適格性を有するとの前提を基にして、以下の特許適格性の判断基準を示した。更に、上記のようにコンピュータは特許適格性を有するとしても、クレームされた発明は抽象概念として特許適格性を有さないか否かに着目した。そして、クレーム26はコンピュータ、第一当事者装置、データ記録装置、機械部材を介して該コンピュータと該第一当事者装置に接続される通信制御装置を有し、更に375特許の明細書にそれらのクレーム要素を使用した方法ステップの特定の実施例を詳細に記載している、と述べた。
 上記の理由から、Rader主席判事は、クレームされたシステムを抽象概念として認定することは、これらのクレーム要素の意味を歪曲し、限定的な例外を拡大されたルールに変化させてしまう、との見解を示した。
 加えて、Rader主席判事は、機械自体を具現化しているクレームが抽象概念として認定を受けるケースは稀であるべきだと述べた。
 尚、Rader主席判事の見解に賛同した判事らは、方法クレーム、記録媒体クレームに特許適格性を認めるか否かに関して、意見を異にした。2名の判事は、上記方法クレーム、記録媒体クレームには特許適格性を認めなかったが、残りの2名の判事はこれらのクレームに特許適格性を認める別の見解を示した。

○Moore判事の見解
 Moore判事は、Lourie判事の見解に反対し、仮にLourie判事の特許適格性判断の基準が採用されれば、コンピュータにより実行される通信関連特許のみならず、数多くのビジネス方法、財政システム、ソフトウェア関連の特許の無効化を招く、との強い懸念を示した。

○その他に、Newman判事、Linn判事も上記と別に見解を示した。

 

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長・弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
同 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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