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ソフトウエア特許をめぐる最近の米国特許庁の考え 2008年8月27日 Langemyr審決及びWasynczuk審決より
米国特許庁(USPTO)の審判部(Board of Patent Appeals and Interferences (以下BPAIという))は、最近の, Langemyr審決(2008年5月28日)及びWasynczuk審決(2008年6月2日)の中で、ソフトウエア特許に関する注目すべき考えを示した。
ソフトウエア発明が特許保護の対象と成りうるか否かを争った過去のケースとしては、クレーム記載の伝播信号は何れの特許保護対象のカテゴリーに入らないとする、CAFC(連邦巡回控訴裁判所) Nuijiten事件判決(Sept.20,2007)、クレーム記載の調停方法は装置に関連づけられてなく組成物や製造物にも関連しないので特許保護対象でないとする、同 Comiskey事件判決 (Sept.20,2007)、特許法101条のもとで特許保護の対象となる発明とは何かをめぐりCAFCで大合議体審理(en banc hearing) が進行中の Bilski事件(BPAI 2006)などがある。
BPAIは, Bilski事件において、クレーム記載の発明が特定の装置に関連づけられているか、或いは対象物の物理的変化が起こらない限り特許保護対象ではないとの立場を示している。
最近の上記2件の審決は、何が保護対象であるかという問題に関する米国特許庁の考え方をより明確にするものとして注目される。
Langemyr審決でBPAIは、「(本件)クレーム記載の方法が、物理的な対象物を他の状態や他のものに変換するものではない。また方法がコンピュータ装置により実行されるとの限定は、方法を”特定の装置”に関連づけるものでもない。」として、本件クレーム記載の方法は特許保護の対象ではないとの判断を下した。
この”特定の装置”との関連づけについて審決は、「プリアンブルにコンピュータ装置を記載することは権利範囲を実質的に何ら限定するものではなく、クレーム記載の発明は如何なる手段でも実行可能な方法発明にすぎない。そのようなプリアンブルの記載だけで、クレーム記載の方法が特許保護対象となるような特定の装置が記載されていることにはならない。」と述べている。
またWasynczuk審決でBPAIは、クレーム記載の方法では他の状態や他の物への対象物の変換が行われていないが、「第1の物理的計算装置により第1のシュミレーション段階が実行され、第2の物理的計算装置により第2のシュミレーション段階が実行される」というクレームの記載に基づいて、クレーム記載の方法は”特定の装置”に関連づけられたものであるとし、この判断に基づき(本件の)方法クレームについては特許保護の対象であるとの審決を下した。 但しシステムクレームについては、単に”computer-implemented system” との記載があるのみであり、そのようなコンピュータはクレームの機能を実行するための一般の装置でしかなく、”特定の装置”には該当しないとし、この判断に基づき抽象的概念を記載しているに過ぎないシステムクレームについては特許保護の対象ではないとした。
これら二つのケースから分かるように、最近の米国特許庁の考え方によれば、抽象的な概念でしかないソフトウエア発明は、それを単に汎用コンピュータで実行するというだけでは特許保護の対象にはならないことになる。
- 本欄の担当
- 弁理士 吉田千秋