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ビルスキ事件最高裁判決を踏まえた米国特許商標庁の暫定的審査手引きの概要
変動相場リスク回避方法クレーム(米国特許出願番号08/833,892)についての特許適格性に関して争われていたビルスキ事件(Bilski v. Kappos) について、去る2010年6月28日、米国最高裁判所において判決が下されたことを受け、米国特許商標庁(USPTO)は、2010年7月27日付でプロセスクレームの特許適格性に関する暫定的審査手引きを示しました。以下にその概要を紹介致します。
【ビルスキ事件最高裁判決】
米国最高裁判所は、当該クレームは抽象的アイディア(abstract idea)に該当するとして、特許適格性の基準を満足しないと判断しました。しかし、その中で米国最高裁判所は、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の下した判決の基準となった「機械又は変換テスト」(machine-or-transformation test)は依然として、方法クレームの特許適格性の判 断に際し有効なテストであると支持しつつも、方法クレームの特許適格性の唯一のテストではないと明示しました。
【米国特許商標庁の暫定的審査手引き】
今回の審査手引きは2009年8月24日付の”Interim Examination Instruction for Evaluation Subject matter Eligibility under 35 USC 101 (Interim Instruction)”の補足資料であり、Interim Instructionとこの審査手引きに相違点がある場合は、この審査手引きがInterim Instructionより優先されるとしています。 また、この審査手引きはMPEPにも反映されるとしています。
なお、米国特許商標庁は、この審査手引きに関する意見を広く一般から求めており、締め切りは2010年9月27日です。
この暫定的審査手引きの概要は以下のとおりです。
1. 最高裁判決を受け、101条に基づく特許適格性の問題のみに審査を集中させるべきではなく、102, 103, 112条に基づく要件も考慮に入れ、審査を行うべきである。つまり、極端な場合を除いて、101条に基づく特許適格性によってのみ審査を行うことを避けるべきである。
2. 審査手続きの迅速化(Principle of Compact Prosecution)の観点からも、特許適格性が欠如するクレームが存在する場合でも、全てのクレームに関して、最初の審査段階で、全ての特許性に関する要件に基づいて審査をするべきであり、審査官は重複しない全ての拒絶理由を第一回目の拒絶理由通知の中で記載すべきである。
3. この審査手引きは、クレームが抽象概念を含む場合においても、101条の特許適格性のみが特許性の判断に用いられてはいけない、また101条は単に目の粗いフィルタでしかなく、101条に基づく特許適格性の判断は、特許性を審査する出発点でしかない。
4. 以上を踏まえた、プロセスクレームの特許適格性を判断するチェックリストは以下の通りである。
<プロセスクレームの特許適格性評価チェックリスト>
A. 特許適格性に有利な要素
A-1「機械、又は変換」がクレームに記載、或いは示唆されている場合:
・ 「機械、又は変換」が詳細に記載されている
・ ステップの実行に対しての、「機械、又は変換」による限定が無意味ではない
・ 「機械」がクレームされているステップを実行している
・ 「変換」の対象物が詳細に記載されている
・ 該対象物が状態、又は物として変化している(客観的な機能、使用目的の変化など)
・ 「変換」される対象が、物体、或いは物質である
A-2 クレームが自然法則の応用に関する場合:
・ 自然法則が実用的に応用されている
・ ステップの実行に対して、自然法則の応用による限定が無意味ではない
A-3クレームが単なる概念の記載を超えている場合:
・ 特定の問題の解決法を記載している
・ クレームが目に見える形で概念を実行している
・ 方法のステップが観察、確認可能である
B. 特許適格性に不利な要素
B-1 「機械、又は変換」がクレームに記載、或いは示唆されていない場合:
・ 「機械、又は変換」の、方法の実行に対する関与が、単に名目的である、無意味、希薄である
・ 「機械」が、総称的に使用され、クレームのステップを実行可能なあらゆる機械を含む
・ 「機械」は、方法が実行される場所を提供しているのみ
・ 「変換」が対象物の位置を変化させるのみ
・ 対象物が一般概念である
B-2 クレームが自然法則の応用では無い場合:
・ クレームが自然力学を独占する、或いは科学的事実に対して特許を付与してしまう
・ 自然法則が単に主観的にのみ応用されている
・ 自然法則と、方法の実行との関連性が、単に名目的である、無意味、関連性が希薄である
B-3 クレームが一般概念の記載でしかない場合:
・ 方法クレームに記載のある概念の利用が、当該概念の独占を結果的に許してしまう
・ 公知と新規の当該概念の使用方法を共に含み、それらの方法があらゆる既存の、又は未知の装置によって実行すること
が出来る、又は一切の装置を必要としない
・ クレームが解決すべき問題のみを記載している
・ 当該一般概念が具体化されていない
・ ステップが実行されるメカニズムが主観的過ぎる、或いは、認識できない
5. また、一般概念の例としては、以下のように示されています。
・ 基本経済活動、理論(リスク回避、保険、金融活動、マーケティング等)
・ 基本法律理論(契約、問題解決、法律等)
・ 数学的概念(アルゴリズム、空間関係性、幾何学)
・ 精神活動(判断、観察、評価、意見等)
・ 個人間の相互活動や関係(会話、交際)
・ 指導概念(記憶、反復)
・ 人間の活動(運動、着衣運動、ルールや指示に沿う行動)
・ ビジネスに関する指示
6. このように、プロセスクレームが抽象概念であるか否かを判断するチェックリストが示されたが、いかなる場合にも全ての要件を満たす必要が有るのではなく、どの要素も、それ一つのみでは決定的な判断材料にはならない、また、夫々の要素の重要度も、夫々の出願によって異なるとしています。
7. 審査官が特許適格性に基づく拒絶を行う際には、クレーム全体、又、ビルスキ最高裁判決で示された関連する要素全てを審査の考慮に入れなければいけない。
- 本欄の担当
- 米国オフィス IPUSA 特許弁護士 Martin Weeks
パテントエージェント 有馬 佑輔