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KSR判決を踏まえた発明の自明性審査ガイドラインを発表 2010年9月1日 米国特許商標庁(USPTO)
2010年9月1日、米国特許庁(USPTO)は、KSR判決を踏まえた発明の自明性(35 USC 103)に関する審査ガイドライン ? Examination Guidelines Update: Developments in the Obviousness Inquiry After KSR v. Teleflex ? をFederal Registerに発表致しました。その要点は以下のとおりです。
<KSR判決を踏まえた発明の自明性に関する審査ガイドラインの要点>
・KSR判決後は、従来の厳格なTSMテストのみが自明性の拒絶の根拠ではない。
・従前のteaching away from the claimed invention by the prior art, lack of a reasonable expectation of success, and unexpected result等の反論はKSR後も有効である。
・審査官の立証責任について
1.(Ball Aerosol, 555 F.3rd at 993を参照し、)審査官はMPEP2141およびMPEP2143に従い、適切な、事実に基づく論証が必要である。
2. 発明当時のその分野の当業者にとってクレームされた発明が自明であるという根拠に関して、論理的な説明が必要である。
3. 上記1,2は審査官が「常識や通常の工夫」を基に拒絶する際にも必要である。
※2007年のガイドラインでは、TSM(teaching-suggestion-motivation)テスト以外に、自明であることを主張するための以下の6つの理由付けを特定しています:
(1)従来の要素を公知の方法で組み合わせ予測可能な結果を得ている、
(2)公知の要素によって他の要素を単純に置き換えて予測可能な結果を得ている、
(3)公知の技術を用いて類似の装置、方法、製品を同じやり方で改善している、
(4)公知の技術を、改良できる状態の公知の装置、方法、製品に適用して予測可能な結果を得ている、
(5)”obvious to try”-特定されている予測可能な限られた数の解決策の中から、成功する見込みがあって解決策を選択している、
(6)ある分野での公知の成果が、設計動機や市場からの要請に基づいて、同一の又は異なる分野用に、
当業者にとって予測可能な形に変形されている
今回の2010年のガイドラインのアップデートでは、KSR判決後のCAFCの判例が事例集として表に纏められています。
この事例集は、中間処理の作業において適切な事例を容易に見つけることができるように、自明性の概念に従いグループ分けされています。
最初の3つのグループは、2007年のガイドラインで特定されている上記理由付けのうちの3つ、即ち、従来技術の要素の組み合わせ、公知の要素による他の要素の置き換え、及び、”obvious to try”に対応しています。
・従来技術の要素の組み合わせについて
1. 公知の要件を公知の方法で組み合わせて予測可能な結果を得ている場合であっても、従来考えられるよりも多くの時間、労力、又は資金がその組み合わせに至るために必要である場合には、そのように組み合わせることについての理由付けが重要である。
2. 組み合わせる物が公知であり、組み合わせることが技術的に可能であり、更に結果が予測可能な場合であっても、組み合わせる際に更なる努力が必要であり、そうすることの理由が認知されていない限り当業者はそのような努力をしないであろう場合、クレームされた発明は自明でない可能性がある
・KSR判決で示された、新しい自明性の根拠である”Obvious to Try”に関して
1. 今回のガイドラインでは、”this rationale is only appropriate when there is a recognized problem or need in the art; there are a finite number of identified, predictable solutions to the recognized need or problem; and one of ordinary skill in the art could have pursued these known potential solutions with a reasonable expectation of success…”と記載されており、上記a finite number of identified, predictable solutions(有限の、確認された、予測可能な解決方法)に関して、KSR判決後の裁判所の法解釈では、「予測可能性」と「当業者の合理的な成功の期待」の2点に重きが置かれている。
2. 例として、Example 4.18, Sanofi-Synthelabo v. Apotex, Inc., 550 F.3d 1075 (Fed. Cir. 2008)を参照し、仮に少数の解決方法しかない場合でも、全ての証拠を検証した後、結果が予測可能でなかったとみなされ、発明者が合理的な成功の期待を持ち得なかった場合には“Obvious to Try”の論理は不適切である。
・当該ガイドラインはあくまでガイドラインであり、法としての効果、強制力は無い。
このFederal Registerに記載されたガイドラインでは、Appendixとして、今後審査官が用いると予想される103条に基づく拒絶のサポートとなる判例が表に纏められています。
- 本欄の担当
- 米国オフィス IPUSA 特許弁護士 Martin Weeks
パテントエージェント 有馬 佑輔