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2011年特許法改正について
去る5月31日、「特許法の一部を改正する法律案」が国会で可決成立、6月8日に法律63号として公布されました。今回の法改正の要点を実務家の観点から解説致します。
Ⅰ.施行日
2011年12月3日政令369号により2012年4月1日とすることに決定。
(この項のみ差し換え 2011年12月16日)
Ⅱ.改正の概要
1.発明の新規性喪失の例外の適用の拡大(法第30条)
現行法では、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公知となった発明のうち、試験行為や刊行物発表行為などの所定の行為により公知となった発明のみが、新規性喪失の例外の適用を受けることができる。例えば、自らの販売により公知にした発明については、新規性喪失の例外の適用を受けることができない。
改正法によると、販売やTV発表を含む如何なる行為(ただし、内外国特許公報等掲載を除く)によっても、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公知となった発明について、新規性喪失の例外の適用を受けることができるようになる(法第30条2項)。
第1国特許出願前の販売等で新規性を喪失したことにより、日本への特許出願を断念するケースがこれまで少なくなかったが、今回の法改正によりこのような場合にも出願の機会が与えられることになる。 ただし、新規性喪失の例外の適用を受けるためには、公知日から6ヶ月以内に日本特許出願又はPCT出願をする必要がある。
2.無効審判に対する訂正の制度を変更
(1)無効審決取消訴訟提起後の訂正審判請求不可(126条②)
現行法では、特許権者は、特許庁審判官による特許無効審決に対して審決取消訴訟を知財高裁に提起した日から90日以内に、クレームを減縮等するために訂正審判を請求することができる。改正法によると、その訂正審判の請求ができなくなる。
(2)審決予告に応答して訂正請求可能(164条の2②)
改正法によると、特許無効審判請求の審理において、審判長は、無効審決をしようとするときは、その前に審決の予告をしなければならない。特許権者は、審決予告の日から所定の期間内に、クレームを減縮等するために訂正請求をすることができる。特許庁審判官は、訂正後のクレームが無効であるか否かの審理を行い、審決を下す。
従って、審決の予告を受けると、それがおそらく最後の訂正の機会となるので、特許権者は、無効審理の対象となっているクレームについて適切な訂正をして無効理由を解消させるよう慎重に検討すべきである。
3.通常実施権等について未登録でも特許権の事後的取得者への対抗要件を認める(99条①)
現行法では、通常実施権者は、特許庁において通常実施権の登録をしないと、事後的にその特許権を取得した者に対して、その効力を主張することができない。
改正法によると、通常実施権の登録制度を廃止し、通常実施権者は、登録をしていなくとも、通常実施権発生後にその特許権を取得した者に対しても、その効力を主張することができる。
4.冒認出願等に係る特許権に対して正当権利者が移転請求できる(74条①)
現行法では、特許が、特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき又は共同出願義務違反(法第38条)に該当する出願に対してされたときには、特許を受ける権利を有する者(正当権利者)は、無効審判を請求することによってその特許権を無効にする方策(法第123条第1項第6号)しか存在しない(平成21年(ワ)第297号)。
改正法によると、特許が、特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき又は共同出願義務違反に該当する出願に対してされたときは、正当権利者は、その特許権者に対して特許権の移転を請求することができる。この移転請求権は、通常、訴訟において主張され、勝訴した場合に、確定した勝訴判決を以て、特許庁に特許権移転登録申請手続をすることになる。
5.一事不再理効を第三者に適用しない(167条)
現行法では、特許無効審判の棄却審決がいったん確定すると、もはや誰も同一の事実及び同一の証拠に基づいて、同様な無効審判の請求をすることができないという一事不再理効が働く。
改正法によると、この一事不再理効は、当該無効審判事件の当事者及び参加人にのみ適用され、それら以外の第三者には適用されない。すなわち、無効審判の請求棄却審決の確定後であっても、当該確定審決の当事者及び参加人以外の第三者は、同一の事実及び同一の証拠に基づく特許無効審判の請求をすることができる。
6.正当な理由ある場合の期限徒過の救済
(1)現行法では、PCT出願の日本国内移行後2ヶ月以内(「翻訳文提出期限」)に明細書等の日本語への翻訳文を特許庁に提出しないと、その日本国内移行出願は取り下げられたものとみなされ、その取り下げに対する救済規定は存在しない。
改正法によると、翻訳文提出期限内に翻訳文を提出できなかったことについて正当な理由があるとき(Due care)は、その理由がなくなった日から2ヶ月以内であり、かつ翻訳文提出期限から1年以内に限り、翻訳文を特許庁に提出することができる(184条の4第4項)。この改正規定は、PLTとの調和を図ったものである。
(2)改正法によると、特許料の維持年金の納付期限を徒過し、さらに6ヶ月間の倍額追納期限を徒過したときであっても、倍額追納期限徒過について正当な理由があるとき(Due care)は、その理由がなくなった日から2ヶ月以内であり、かつ倍額追納期限から1年以内に限り、特許料を追納することができる(112条の2第1項)。この改正規定は、PLTとの調和を図ったものである。
7.再審の制限(法第104条の4)
特許権侵害訴訟において、特許が有効であることを前提として特許権者の請求を認容する判決が確定した後に、当該特許権に対する無効審判の無効審決が確定した場合、この無効審決確定は、先の特許権侵害訴訟の確定判決に対する再審事由になると考えられている(民訴338条第1項第8号)。
改正法によると、上記の場合において、先の特許権侵害訴訟事件の当事者は、先の特許権侵害訴訟の確定判決に対する再審の訴えにおいて、当該無効審決が確定したことを主張することができない。
従って、被疑侵害者側は、無効審判請求の無効審決を早期に得るように努力すべきである。
8.他人の商標権消滅後1年間の商標登録排除効を廃止(商標4条①13号)
商標権が消滅した日から1年を経過していない他人の商標又はこれに類似する商標の登録を認めないとする現行法の規定を廃止する。
- 本欄の担当
- 上級副所長・弁理士 大貫 進介