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「メディシン社対ホスピラ社」事件(CAFC大法廷判決、2016年7月11日)

(The Medicines Company v. Hospira, Inc., App. No. 14-1469(Fed. Cir. 2016) (en banc))

 2016年7月11日付で、米国巡回控訴裁判所(以下 CAFC)の大法廷により、pre-AIAの特許法102(b)におけるOn-Sale-Bar(販売による不特許事由)に関する判決が出されましたので、ご報告申し上げます。

判決の要点

 CAFC大法廷は、ある製品が米国特許法102条(b)(AIA前)にいう “on sale(販売中)” であるといえるためには、統一商事法典の2-106節による一般的な特徴をもった商業的な販売の対象物でなければならない、との判断を示した。また、特許権者の在庫形成(備蓄)は、102条(b) に基づく妥当でない商業化には当たらない、との判断も示した。

 本事件は、メディシン社(以下、メディコ)が、ホスピラ社(以下、ホスピラ)を米国特許7,582,727号及び7,598,343号に対する侵害で訴えたものである。これらの特許は医薬品ビバリルジンに係るもので、同医薬品は冠動脈手術で抗凝血剤として使用されると非常に効果的である。当該特許に係る出願は2008年7月27日に提出されており、on-sale bar (旧102条(b)の規定に基づく出願の1年以上前の発明者等による販売を理由とする拒絶)に係る日付は、2007年7月27日である。
 メディコは専門医薬品会社で自前の製造設備を持っていない。2006年の終わりにメディコは、ベンベニュー研究所(以下、ベンベニュー) に347,500ドルを支払い、当該特許に係る3バッチ分のビバリルジンの製造を委託した。2006年10月31日と12月14日の間に、ベンベニューは、市販に供することもできる3バッチのビバリルジン (60,000本を超える小瓶)をメディコのために製造した。これらのバッチの市場価格は2000万ドルを超えていた。これらのバッチは、メディコの販売代理店であるIntegrated Commercialization Solutions (以下、”ICS”)の下で隔離保管され、米国食品医薬品局の承認を受けることとなった。メディコ とICS は2007年2月27日発効の代理店契約を交わし、この代理店契約により、ICSはアンジオマックス(ビバリルジンの医薬品としての商品名)の独占的な正規代理店となり、メディコに対し週単位で購入発注を行い、それに対しメディコはその注文を受諾又は拒否できることとされた。
 上訴において、ホスピラは、メディコの特許発明品の製造に係る実施例によれば, ベンベニュー が製造した発明品は102条(b) による “on sale(販売中)” に該当するものであると主張した。その主張の中でホスピラは、特にメディコがそのバッチについて商業的使用への適合、市販用製品コードの付与、及び臨床向けパッケージでの提供を要求した事実を指摘した。
 これに対し、巡回裁判所はホスピラ の主張を認めず、メディコとベンベニューとの間の取引は、特許発明品の商業的な販売には当たらないとの判断を示した。この判断に示すに際して、裁判所は当該特許のクレームは物に係るものであり、方法に係るものではないことを指摘した。裁判所はまた、物に係る特許のクレームに記載されていないその物を生産する方法の実施について、物そのものの商業的販売を伴わない場合に、on-sale bar (販売を理由とする拒絶)を適用した判決はこれまでにはない、とも指摘した。裁判所はまた、ベンベニューの請求書には「ビバリルジンのロット製造に対する請求 」と記載されていたこと、そしてメディコ が ベンベニューが製造した製品に支払ったのは末端市場価格の1% に過ぎないことも指摘した。巡回裁判所 はまた、統一商事法典の2-106 (1) 節が「販売」を「対価に対して、売り手から買い手へ所有権を移転すること」と規定するところ、メディコは当該特許発明品に係る所有権をベンベニューに譲渡していないことも指摘した。さらに、 巡回裁判所 は当該取引の秘密性も、当該取引が商業性をもつとの結論を導くことができない要因として比較考慮すべきことも指摘した。これらの理由により、巡回裁判所 は、ベンベニューがメディコに対し販売したのは製造請負サービスに過ぎず、米国特許法102条(b) に該当する特許発明品を販売したのではないと結論付けた。
 ホスピラは、こうした状況で102条(b) が不適用となることを認定するならば、発明者が、流通経路で長期に欠乏する発明品を補充するために商業的備蓄をすることも不適切に認容することになると主張した。巡回裁判所 はこの主張も退け、発明者にとってなんらかの商業的利益が生ずるすべての商業的活動を102条(b) の販売と考えることはできないことを指摘した。巡回裁判所は、製造サービスの購入者が特許発明品を備蓄 することは、将来の販売に備えた事前の商業活動に過ぎず、米国特許法102条(b) の商業的販売には当たらないと結論付けた。
 大法廷判決の判事団は、当該上訴を元の3名の判事団に差戻し、メディコ と ICSとの間の代理店契約に対する on-sale bar (販売を理由とする拒絶)の適否につき判断をするよう求めた。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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