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消尽論(Doctrine of Patent Exhaustion)に関する米国巡回控訴裁判所(CAFC)大法廷判決に関して
(Lexmark International, Inc. v. Impression Products, Inc. (Federal Circuit, February 12, 2016))
2016年2月12日付で、米国巡回控訴裁判所(以下、CAFC)大法廷により、消尽論(Doctrine of Patent Exhaustion)に関する判決が出されました。この判決の要点は、以下のとおりです。
1.背景
Lexmark International, Inc. (Lexmark)はLexmarkが製造、販売する多くのプリンタ及びトナーに係わる特許を所有している。Lexmarkは、明示的に一度きりの使用/転売禁止制限を設けることにより、カートリッジ(Return Program Cartridges)を割引価格で販売している。
Return Program Cartridgesは、トナーを詰替えた後にカートリッジを再利用できないようにする特殊なチップを含んでいる。Lexmarkはこれよりも高い価格で、上記制限の無い通常のカートリッジ(Regular Cartridges)を販売している。Regular Cartridgesは詰替えや再利用が可能である。
Impression Products, Inc. (Impression)は、2種類のLexmarkのカートリッジを米国での転売目的で取得した。そのうちの第一の種類は、Lexmarkが米国にて当初販売したReturn Program Cartridgesである。第二の種類は、Lexmark が米国外で当初販売したものであり、Return Program CartridgesとRegular Cartridgesの両方を含んでいる。Impression が取得したReturn Program Cartridgesは、上記制限に違反して再利用を可能とするよう、第三者により物理的に加工されていた。
Lexmarkは、Impressionに対して、米国特許法271条に基づく特許侵害の訴えを起こしていた。Impressionは、この抗弁として、消尽論(Doctrine of Patent Exhaustion)の下では、当初のLexmarkによるカートリッジの販売は、権利の譲渡と見做されるので、その後のImpression による転売及び輸入は侵害とはならない、と主張した。
消尽論(Doctrine of Patent Exhaustion):
特許権者が販売、或いは販売を許可した場合、特許により保護された製品の販売により、転売等の行為を行う権利が製品の購入者に生じる、との法理である。
2.地裁判決
上記第一の種類のカートリッジに関して:地裁は、販売後の使用制限 (post-sale use restrictions) を設けたとしても、消尽論が適用される、とのImpressionの主張を支持し、上記第一の種類のカートリッジに関する非侵害を認めた。
上記第二の種類のカートリッジに関して:地裁は、Lexmarkによる米国外でのカートリッジの販売はLexmarkの米国への輸入を禁じる権利を消尽させない、との見解を示し、上記第二の種類のカートリッジに関するImpressionの侵害を認めた。
3.CAFC大法廷判決
CAFCは、消尽論に関する判例(Mallinckrodt, Inc. v. Medipart, Inc., 976 F.2d 700 (Fed. Cir. 1992)及びJazz Photo Corp. v. International Trade Commission, 264 F.3d 1094 (Fed. Cir.2001))は維持するとの見解を示し、Lexmarkの当初の販売は、Impressionに対して米国へのカートリッジの輸入や販売の権利を与えていない、と判示した。
上記第一の種類のカートリッジに関して:
CAFCはMallinckrodt, Inc判決を適用し、特許権者が、合法的かつ明示的に、一度きりの使用/転売禁止制限を購入者に知らせていた場合、特許権者は購入者や下流の購入者に、転売/再利用の権限を与えない、と判示した。また、販売当初に設けられ、購入者が知っていた合法的な使用制限に反する場合、このような転売や再利用は許可されず、特許法271条に基づく特許侵害となる、との見解を維持した。
尚、Impressionは最高裁判決のQuanta Computer, Inc. v. LG Electronics, Inc., 553 U.S. 617 (2008)により、Mallinckrodt, Inc判決は覆されている、と主張した。しかしCAFCは、Quanta判決は特許権者による販売及び一度きりの使用/転売禁止制限を設けた販売に関するものではない、としてこの主張を退けた。
CAFCは、Quanta判決は、1)特許権者(LG Electronics、以下LGE)ではなくライセンシー(Intel)により、コンピュータメーカーであるQuantaに販売されている、従って特許権者は問題となった製品の製造と販売を認めていること、及び2)特許権者がライセンシーへ与えた販売の権利には条件が設けられていなかった(つまり、LGEとIntelの契約では、制限の無い製品販売の権利を与えていた)、との理由で、本判決には適用しないとした。
上記第二の種類のカートリッジ(Return Program CartridgesとRegular Cartridgesの両方を含む)に関して:
CAFCはJazz Photo Corp. 判決を適用し、米国の特許で保護された製品を海外で販売したり、第三者に販売を許可したとしても、転売/再利用の権利を米国への製品の輸入及び米国での販売及び使用を製品の購入者に対して許可したことにならない、との見解を維持した。上記の見解は、海外での販売において権利の留保(reservation of rights、一度きりの使用/転売禁止制限が無い)がされていない上記第二の種類のカートリッジ( Regular Cartridges)の場合においても適用される。
尚、Impressionは、最高裁判決のKirtsaeng v. John Wiley & Sons, Inc., 133 S. Ct. 1351 (2013)により、Jazz Photo Corp. 判決は覆されている、と主張した。CAFCはKirtsaeng判決は著作権に係わる判例であり、米国著作権法109条(a)の「本編に基づき適法に作成された特定のコピーの所有者は、著作権者の許諾なく、当該コピーを売却或いは処分することができる」との文言を解釈している。Kirtsaeng判決は、上記109条(a)の保証は米国内で作成されたコピーのみならず、コピーの製造者が著作権所有者から製造許可を得ている限りにおいて、製造者の所在に無関係に適用される、としている。しかし、CAFCは、特許法に基づく消尽は異なる法的根拠に基づき、異なる分析を要するため、Kirtsaeng判決は特許法に基づく消尽には適用されない、との見解を示した。
尚、CAFCは、消尽論ではなく、特許権者とのやり取り、或いは販売におけるその他の状況に基づく黙示的なライセンスを証明することにより、海外販売を侵害に対する抗弁として使用することが可能である、との見解も示したが、Impressionは上記黙示的なライセンスを抗弁として使用しなかった。
以上
- 本欄の担当
- 副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
同 米国パテントエージェント 有馬 佑輔