最新IP情報
欧州共同体商標制度の概要
1.欧州共同体商標制度とは、
[1] 1996年4月1日より導入されているEU加盟国全域で有効な統一された商標制度であり、正式名称はThe Community Trade Markです。一般にはCTMと呼ばれており、管轄機関はOffice for Harmonization in the Internal Market (通称:OHIM(オーヒム)、所在地:スペインのアリカンテ)です。
[2] この制度が導入される迄は、国ごとに出願する必要があったため、手続きにかかる時間、費用、保護範囲にばらつきがありましたが、CTMが導入されたことにより、加盟国全域で同一レベルの保護及び権利を持つことが可能になりました。
[3] CTMの特徴は、1件の登録で保護範囲がEU全体に及ぶという点です。マドプロのように、願書にて国を指定する必要はありません。また、EU加盟国が後に追加された場合でも、特別な手続や追加料金は必要なく、自動的に新加盟国へも保護範囲が拡張します。
[4] 出願は、OHIM、各国特許庁又はベネルクス商標庁のいずれかに対して行います。
[5] 審査については、方式審査及び実体審査が行われます。実体審査は、絶対的拒絶理由(商標自体に起因する拒絶理由)についてのみであり、相対的拒絶理由(他人の商標等の存在に起因する拒絶理由)については行われません。また、OHIM及び加盟国において商標調査が行われ、その結果は出願人に送付されます。出願人が取り下げをしなければ出願は公告され、異議申立がなければ、登録が決定します。
[6] 存続期間は出願から10年で、何度でも更新可能です。
[7] 2004年8月より、マドプロ出願においてもEUを指定できるようになりました。そのため、EU全体での保護を希望する場合、従来通りCTMで出願する方法と、マドプロでEU(EM)を指定する方法のいずれかを選ぶことができます。
[8] CTMの長所としては、i)1通の願書でEU加盟国全体に出願することができる点、ii)欧州全域で同等の保護を受けることができる点、iii)現地代理人が1人で済む為、直接出願に比べてコストを抑えることができる点等が挙げられます。また、更新や各種変更手続きも一括で行えるため、登録後の管理がしやすい点も長所と言えます。商標の使用についても、加盟国の1ヵ国において使用していれば、商標の不使用を理由に取り消されることはありません。
[9] 一方、短所としては、拒絶・取消・無効が全域に反映されてしまう点や、相対的拒絶理由の審査を行わず、且つ、加盟国が多いため、多くの同一・類似商標が共存している(のちに異議申立を受ける可能性がある)点等が挙げられます。
以下、CTM出願制度について、より詳しく説明します。
2.保護が及ぶ国
EU加盟国で保護されます。国を指定する必要はなく、また、限定することもできません。加盟国が増えた場合でも特別な手続することなく、自動的に新加盟国へも保護が広がります。 EU加盟国で保護されます。国を指定する必要はなく、また、限定することもできません。加盟国が増えた場合でも特別な手続することなく、自動的に新加盟国へも保護が広がります。
2004年12月現在25カ国:オーストリア、ベネルクス(オランダ・ベルギー・ルクセンブルク)、キプロス、チェコ、ドイツ、デンマーク、エストニア、スペイン、フィンランド、フランス、英国、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、リトアニア、ラトビア、マルタ、ポーランド、ポルトガル、スウェーデン、スロベニア、スロバキア
3.優先権主張
CTM出願においても、(日本の)出願から6ヶ月以内であれば、優先権主張を行うことができます。優先権を主張することにより、日本での出願日がCTMの実質的な出願日に適用されます。
4.使用言語
出願時の言語は、20カ国語の中から選ぶことができ、公用語である英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、イタリア語の中から第2言語を選択します。CTM出願は、現地代理人を通す必要がある為、出願人が使用言語を選択する必要は特にありません。
5.セニオリティ (Seniority)
[1] CTM出願前に、EU加盟国において「CTM出願商標と同一であり、且つ、同一(もしくは同等以上)の指定商品・役務について登録された商標」を同一の名義人が既に持っている場合、セニオリティをそのCTM出願に際して主張をすることができます。このセニオリティにより、既に登録されている登録内容をCTM登録において反映させることができます。よって、一旦CTM登録されると、後に既に持っていた各国での登録を放棄しても、CTM登録をもって登録内容を維持し続けることができます。セニオリティ主張は登録後に行うことも可能です。
[2] セニオリティの対象となる商標は、EC加盟国内で登録された商標であれば、パリ条約に基づく各国出願、または、マドリッド協定及びマドリッド協定議定書に基づく国際登録出願で取得した商標でもかまいません。但し、出願中のものには適用されません。
6.審査
[1] CTM出願における審査は、絶対的拒絶理由についてのみ行われます。当該拒絶理由があると判断された場合、OHIMは出願人に対してその旨を通知し、出願人はOHIMが指定した期日までに補正書や意見書を提出する機会を与えられます。
[2] 相対的拒絶理由の審査(第三者の商標権を含めた審査)は、異議申立があった場合にのみ行われます。
[1] 一般にサーチと言われます。サーチにはA) OHIMが行うもの とB)各国官庁が行うもの の2種類があります。A)の調査では、先行する同一・類似CTM出願もしくは登録の有無について調べます。一方、B)の調査では、加盟国官庁が各々の国内及びマドプロで出願されている先行同一・類似出願もしくは登録の有無を調べます。これらの調査結果は出願人に知らされます。但し、商標調査制度を採用していない国では調査は行われません(例:フランス、ドイツ、イタリア、キプロス、ラトビア等)。
[2] 出願人は、その調査結果を見て先行類似商標との後に想定される衝突を回避する為にも、補正や取り下げを行うことができます。
8.異議申立
[1] 調査報告書が出願人に送付された後、出願は公告されます。異議申立期間は公告日より3ヶ月です。先行する同一・類似商標の権利者のみが(CTM出願中、各国出願中、マドプロ出願中でも可能)、相対的拒絶理由に基づく異議申立をすることができます。後続するCTM出願の有無は公報によって調べることができます。
[2] 異議申立があると、申立を受けた側には異議申立された旨の通知が届き、2ヶ月間の“クーリングオフ期間 (cooling off period)”が始まります。この期間内に当事者間で和解が成立すると、申立人が納付した手数料は返還されます。一方、和解が成立しない場合、次の2ヶ月間に、異議申立人は申立の根拠となる証拠を提出しなければなりません。
9.登録後の使用
[1] 登録より5年以内に、指定商品・役務に対して少なくとも加盟国の1つで使用されなければなりません。加盟国のいずれか1つで使用されていれば不使用取消しの対象にはなりません。5年が経過すると、先行商標権者は後に登録されたCTM商標登録に対して無効の申請を行うことができず、登録は共存することになります。
[2] 一方、登録から5年間にわたり一度も使用されていない場合、不使用について正当な理由がある場合を除き、取消しの対象となる場合があります。
10.各国出願への切り替え
CTM出願が拒絶、取下げ、もしくは、取り下げられたとみなされた場合、所定期間内であれば、CTMの出願日もしくは優先日を維持したまま、各国出願へ切り替えることが可能です。
最後に、CTM出願の流れを簡単にまとめたフローチャートを掲載しましたので、ご参照下さい。
《CTMの出願から登録までのフローチャート》
・ OHIMホームページ
・ 『AIPPI マニュアル“欧州共同体商標制度』(1997年4月追補版)
・ 『欧州共同体商標制度新講』(飯田幸郷著 1997年社団法人 発明協会)
・各国サーキュラー